シリーズの勝敗を分けた捕手陣、頭脳戦の差
第4戦に先発した館山も、初回に福田、柳田へボール先行の組み立てから四球となってピンチを作り、イ・デホに先制タイムリーを許した。第5戦に先発したスタンリッジで言えば、全投球のうち、ストライクが67%、ボールが33%だったが、中4日でマウンドに立った石川は、ストライクが62%で、ボールが38%。データが、リードの傾向を示している。その第5戦の石川について、里崎氏は「調子は悪くなかったが、偏った中村のリードで良さを引き出せなかった」と見る。 「初戦で石川は、チェンジアップをやられて3失点した。おそらく中村には、それがイメージとして残っていたのかもしれないが、この日はカットボールにこだわりすぎた。あそこまでカットを軸にした配球になると、狙われて当然。ふたまわり目にイ・デホに狙い打ちされていた。初戦で餌食となったチェンジアップを逆にうまくリードに利用しなければならなかったのに、あまりに工夫が見られないリードだった」 ビデオ判定にもつれこんだイ・デホのレフトポールの遥か上を巻いた特大の先制アーチも、甘いカットボールだった。ヤクルトのバッテリーは、柳田だけはうまく封じ込めたが、シリーズを通じてその効果が勝敗に結びつかなかった。 ヤクルトは、中村が5試合すべてにマスクをかぶった、だが、ソフトバンクは、3試合目までを高谷、第4戦が細川、第5戦を鶴岡とキャッチャーを替えてきた。 「高谷が、山田に3発を打たれて、次の試合で細川に替えたが、キャッチャーは『おれのリードなら打たれていない』と思うもの。細川にすれば、山田とは初対戦だから、恐怖感も抱かずにリードしていた。山田の頭の中を迷わせた。第4、第5戦は、まったくタイミングが合わず、1、2の3で振って、着払いのスイングやバットの先に当たったりしていた。 相手、バッテリーに合わせることとなり、自分本位のバッティングをさせなかった。第5戦の鶴岡のスタメンは、細川の怪我の影響もあったのかもしれないが、インサイドをほとんど使わず、徹底してアウトコース中心のリードだった。捕手が変わればリードが変わるが、鶴岡の大胆な配球に、ヤクルト打線の迷いが増幅したのではないか」と里崎氏。 シリーズの流れを見ながらキャッチャーをチェンジしてきた工藤監督の采配も、ヤクルト打線を最後の最後まで眠らせ続けた要因だったのかもしれない。目に見えない頭脳戦の勝利である。