ミルクボーイ駒場孝の「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」 第14回「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」
これまで名作をほぼ観たことがないまま育ち、難しいストーリーの作品は苦手。だけど映画を観ること自体は決して嫌いではないし、ちゃんと理解したい……。そんな貴重な人材・ミルクボーイ駒場孝による映画感想連載。文脈をうまく読み取れず、鑑賞後にネット上のレビューを読んでも「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」となりがちな彼が名作を気楽に楽しんだ、素直な感想をお届けする。 【画像】「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」場面写真(写真提供:Miramax / Photofest / ゼータイメージ)(他2件) 第14回のお題は「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」。心を閉ざした天才青年ウィルが、妻を亡くした大学講師ショーンとの交流を通じて成長していく姿を繊細なタッチでつづったヒューマンドラマだが、駒場は本作を「特に大きく何も起こらないまま終わってしまった」と錯覚したという。その原因はなんなのか、自己分析してもらった。 文 / 駒場孝(コラム)、松本真一(作品紹介、「編集部から一言」) ■ ロビン・ウィリアムズさんはめちゃくちゃ「ウィリアムズ」でした こんにちは、ミルクボーイ駒場です。今回鑑賞したのは、1997年公開の「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」です。好青年と味のあるおじさんがジャケットの作品です。それぞれ、マット・デイモンさんとロビン・ウィリアムズさんというそうです。いきなりですが今回の「そんなこと言うてた?」ですがマット・デイモンさんてあんなさわやかな方って言うてた?です。名前と見た目のイメージが真逆でした。最初は「マット」ではなく「マッド」と勘違いしており、「マッド」と「デイモン」 という響きから、勝手に、坊主が伸びた感じの短髪でおでこはM字で少し後退、顔はいかつく無精ひげ、大きい身体で毛深くて猫背気味の、プロレスラーみたいな人やと思っていたので、今回調べてみてとても驚きました。ただ逆にロビン・ウィリアムズさんは、「ロビン」でもあり「ウィリアムズ」でもあり、ひげが生えてたのは意外でしたがなんか名前と顔がちゃんと合っていてすごいなと思いました。調べてみるとアメリカを代表するコメディアンだということを知って、またさらにすごいなと思いました。というのも、芸人さんというのは、名前と顔が合って完全体になる気がするんです。「志村けん」さんは誰がどう見ても「志村けん」さんです。初期は「志村健」であったり「志村ケン」であったりしたという歴史もありますが、完全体は「志村けん」なんです。レジェンドすぎて考えにくいですが、志村けんさんをまったく知らない人がいたとして、その人に志村さんと志村さん以外の4人の写真合計5枚出したとして「どれが志村けんでしょう?」と聞いても当たると思うんです。名前が顔に寄るのか、顔が名前に寄るのかわかりませんが、芸人さんの完全体はそんな気がしていて、ロビン・ウィリアムズさんにもそれを感じました。特にめちゃくちゃ「ウィリアムズ」でした。ちなみに俳優さんはいろんな役を演じることになるので、名前と顔が合っていないのは、それはそれで正解な気もするんです。それだけいろんな役を演じられているということになるので。 ■ 自分から読み取りにいかないといけない系の映画 というように、主演のマット・デイモンさんとロビン・ウィリアムズさんの名前のことでこんなにつらつら書くレベルで、「グッド・ウィル・ハンティング」のことはまったく知らなかったです。ここまで事前情報なしの作品も久しぶりだったので、どんな映画なんだろうと楽しみに観始めました。始まった、ふむ、彼はウィル、ふむ、仲良しグループがいて、ふむ、めちゃ賢いのか、ふむ、問題を起こして、ふむ、いろいろあって、ふむ、彼はショーン、ふむ、いろいろ話をして、ふむふむ、ふむ。おー、終わった、ほー、ふむ。これは完全に僕の映画経験値不足だからなのですが、ふむふむ言ってる間にお時間が来てしまいました。話もわかりやすく複雑ではないし、登場人物も多くないし、時系列も一方向だし、めちゃくちゃシンプルでいい話だということはわかるんですが、でもたぶん皆さんが感じているであろう「名作!」という熱さを感じることができませんでした。これは僕が悪いです。なんでだろう。なぜそうなったのかと考えました。そして自分なりに出した結論として、この作品は、「受け身では観られない系の映画」(またの名を「自分から読み取りにいかないといけない系の映画」とも言える)なのかも。という答えに落ち着きました。映画というエンタテインメントは「ここがメッセージ!」とか、「これが面白い!」とか、基本的には作品側が一方的に攻めてきて、こちらは受け身であるという認識でした(もちろん「観る」という大前提の攻めがあるのですがこの場合の受け身は本編が始まってからの姿勢の話)。その攻めの手法の中で、伏線とか少し高度なものがあったりでわかるわからないはあるにせよ、それもすべて攻めてきてくれることには変わりないと思っていました。この連載でも観させてもらった「TENET」なんて攻めに攻めてくる映画でした。攻めてこられている分こちらも受けに受けて、なんとか受けきろうとがんばります。すべて受けきれなくてもがんばった分だけ多少なりともわかり合えることもあります(「TENET」は完全に攻め崩されましたが)。 ただ、この「グッド・ウィル・ハンティング」は、「さぁ、こちらは攻めています、メッセージはそこら中に散らばってます、それをそちらからも攻めてきてつかみ取ってください」という映画のように感じました。それを今まで通り圧倒的な攻め待ち姿勢で完全受け身でいたら、それは特に大きく何も起こらないと錯覚したまま2時間終わってしまいますよね。例によってあとからレビューなどを見ると「こういうことを言ってる」とか「こんなことが感じられる」など、「グッド・ウィル・ハンティング」としっかり闘った、いわば「グッド・ウィル・ファイティング」した人にだけ得られる感想が書かれておりました。なるほど、受け身だけではだダメなこういう映画もあるのか、与えられるだけでなく自分からもつかみ取りにいかないといけないなと、そんなことが勉強になりました。そもそもできていなかった「映画を観る」という攻めの姿勢はできつつあるので、ここからは本編が始まってからの攻めの姿勢も大事に今後もいろんな作品を鑑賞していこうと思います! ■ 編集部から一言 これまではいかにも「エンタテインメント」という作品を多く取り上げてきた本連載ですが、意外と感動系・ヒューマンドラマ系を扱っていなかったので、その中でも秋らしい「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」を観ていただきました。個人的には名作系の作品に対して「自分だけ感動できなかったらどうしよう」という苦手意識があるのですが、そこで怯まずに素直な感想を言えるばかりか「自分の受け身な姿勢がよくなかったので今後は改める」と襟を正せるのが駒場さんの非凡なところだと思います。それにしても一般的に名作と言われている映画に対し、こんなに内容に触れず、「感じ取れなかった」というレビューが映画メディアに載ることもなかなかないのでは……。 ■ 「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」(1998年製作) マサチューセッツ工科大学で清掃のバイトをする青年ウィルは、素行は悪いが実は数学に異様な才能を見せる天才だった。ある日、ウィルは大学の掲示板に書かれた難解な数学の証明問題をこっそり解いてみせる。出題者のランボー教授は、傷害事件で拘置所にいたウィルの身柄を預かり、カウンセリングを受けさせようとするが、彼は誰にも心を開かない。ランボーは、友人であるショーンにカウンセリングを依頼。当初ショーンをからかっていたウィルだが、やがて互いに深い心の傷を負っていることを知り、打ち解けていく。マット・デイモンがウィル、ロビン・ウィリアムズがショーンを演じた。脚本は幼なじみのデイモンとベン・アフレックが共同で執筆し、監督はガス・ヴァン・サントが務めた。第70回アカデミー賞では脚本賞、さらにウィリアムズが助演男優賞を受賞した。 ■ 駒場孝(コマバタカシ) 1986年2月5日生まれ、大阪府出身。ミルクボーイのボケ担当。2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生の内海崇と出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成する。2019年に「M-1グランプリ2019」で優勝し、2022年には「第57回上方漫才大賞」で大賞を受賞。現在、コンビとしてのレギュラーは「よんチャンTV」(毎日放送)月曜日、「ごきげんライフスタイル よ~いドン!」(関西テレビ)月曜日、「ミルクボーイの煩悩の塊」「ミルクボーイの火曜日やないか!」(ともに朝日放送ラジオ)など。またミルクボーイが主催し、デルマパンゲ、金属バット、ツートライブとの4組で2017年から行っているライブ「漫才ブーム」が、2033年までの10年を掛けて47都道府県を巡るツアーとして行われる。