社説:米海兵隊の移転 負担軽減にはほど遠い
「基地負担の軽減」にはほど遠いと言わざるを得ない。 沖縄県に駐留する米海兵隊の一部が米国のグアム島へ移転を始めたと、中谷元防衛相が発表した。 2006年に日米で合意した在日米軍再編のロードマップに盛り込まれ、18年が経過している。 今回は「先遣隊」としてわずか100人の移転にとどまる。しかも、第2陣以降の移転計画は白紙である。 中谷氏は「大きな節目」と地元負担の軽減をアピールするが、いかにも苦しい。これまでに日本側は移転先の整備費などに3700億円以上を負担しているが、見合う効果も全体像も見えないのでは、国民の理解は得られまい。 在日米軍の再編計画は、沖縄県普天間飛行場の移設と海兵隊の移転が柱で、グアムには4千人以上が移転し、約5千人が米国本土やハワイに移転する。 問題は、移転実施が完全に米軍任せになっていることだ。在沖縄海兵隊の兵員数そのものが明らかにされておらず、どれほどの移転かもはっきりしない。政府は米側に計画の詳細と実施日程の開示を求める必要がある。 移転合意後の環境変化から、在日米軍の態勢も見直され、沖縄の基地負担は軽くなるどころか重みを増している。 名護市辺野古の米軍新基地建設は、選挙や県民投票で反対の民意が示されたにもかかわらず、工事が強行されている。 米軍は中国の軍事展開を意識し、海兵隊の集中配置から、小規模な部隊の分散配置で機動力を高める方針に転換している。 沖縄を「戦略的要衝」とする位置付けは変わりなく、12年の移転計画の一部見直しで海兵隊司令部は沖縄に残ることが決まっている。今後、着実に移転が進むのかは不透明だ。 石垣島など八重山地方では日米合同軍事演習が繰り返され、「先島諸島は軍事要塞化しつつある」との指摘も強まっている。 米兵による性犯罪などが後を絶たぬ中、米軍に特権的扱いを与えている日米地位協定は手つかずのままだ。 石破茂首相は自民党総裁選中、沖縄で「日米地位協定の見直しに着手する」と述べたが、首相就任後は「日米同盟の信頼性を高める観点で検討する」とトーンダウンした。 「物言えぬ」同盟ではなく、目の前にある沖縄の苦しみを取り除く主体的な動きが不可欠だ。