ひきこもりがちだった10代の夢「部屋にいながら世界を体験できたら…」 感覚を共有する「ボディーシェアリング」で実現へ、研究者の玉城絵美さん
「部屋にいながら世界中の体験ができたら」―。「ドラえもん」にお願いしそうな夢の技術の開発に取り組んでいる気鋭の研究者、玉城絵美さん(39)。東大大学院博士課程を修了し、故郷の沖縄県にある琉球大で教授を務める。2012年設立のH2L(東京)の社長も兼務し、起業家の顔も持つ。 玉城さんの「ひみつ道具」は「BodySharing(ボディーシェアリング)」という技術で、商標登録している。10代の頃にひきこもりがちだった玉城さん自身が夢見た製品とサービスだ。2029年までに人気アプリを生み出し、普及させるロードマップを描く。仕組みやビジョンを聞いた。(共同通信=吉無田修) ▽身体の動きや感覚をデジタル化して共有 ボディーシェアリングとはどんな技術なのか。H2Lによると、視覚や聴覚、振動するコントローラーと比べて没入感や臨場感が30~50%程度向上する。インターネット上の仮想空間「メタバース」の体験は、もっとリアルに感じられると言う。 「ボディーシェアリングは、デジタル技術を活用して体験を共有する技術や概念の一つです。人間同士、人間とロボット、人間と仮想空間上のアバターの間で体験を共有できるようになります。従来の体験共有は主に視覚や聴覚情報が中心でしたが、ボディーシェアリングは、身体の動きや感覚、例えば重さや力の加減といった身体情報までデジタル化して共有することが特徴です」
「メタバースは、空間上でさまざまなコンテンツが展開され、現実世界を超えた世界を構築する概念です。一方で、ボディーシェアリングは、メタバースから得られたコンテンツや体験を人間にどのように伝えるか、または人間の身体情報をメタバースにどう入力するかという点に焦点を当てています。コンピューターと人間をつなぐインターフェースのようなものと考えられます」 「現状のメタバース体験は、スマートフォンやパソコン、ゴーグル型端末を用いて視覚や聴覚の情報などを入出力しています。しかし、メタバース内で物を持ったときの重さや押す感触といった情報は伝わってきません。ボディーシェアリングは、こういった身体的な入出力の体験を可能にする技術です」 ▽研究のきっかけは10代の頃の経験 ボディーシェアリングで共有するのは人間の「固有感覚」だ。体験できる端末は自ら開発した。 「10代の頃、社交的ではなくひきこもりがちでしたが、社会に適応しようと努力していました。室内にいながらさまざまな体験をできるサービスや製品を切望していました。そして、病気で入院し、身をもってサービスや製品の必要性を感じました。しかし、当時はそのようなものは存在しませんでした。自分自身で研究を始め、ボディーシェアリングという概念を提唱しました」