’19熊本西/3 自主性 全部員でチーム運営 /熊本
<第91回選抜高校野球> 「明日は雨が降りそうだ。室内でのウエートトレーニングに切り替えよう」 練習前、熊本西のグラウンドで「天気掌握班」の後藤真成、浜口智紀両選手(いずれも2年)が真剣な表情で話し合っていた。目の前のホワイトボードに書かれていたのは、直近3日分の天気予報。登校前に自宅でスマートフォンを使い、気象庁のサイトで予報を確認していた。「事前に練習内容を固めることで、少ない練習時間を効率良く使い、みんなの練習意欲を高めることにもつながる」。両選手は胸を張った。 熊本西野球部には、他にも他部と調整しトレーニングルームを予約する「トレーニング推進班」や、野球部員による地域ボランティア活動で中心的な役割を担う「野球普及・地域活性化班」など13の班がある。部員44人全員がいずれかの班に属し、役割分担しながらチームを運営することで、一人一人の自主性を育てている。 「試合で勝つのも大事だが、子どもたちを立派な社会人に育てることが私の仕事」。横手文彦監督(43)は2016年の就任以来、その確固たる信念に基づき、部員たちと向き合ってきた。 原動力となった言葉がある。教員を目指し、大学4年で臨んだ母校・済々黌(せいせいこう)高(熊本)での教育実習。打ち上げの酒席で横手監督は、1学年下の後輩が1994年夏の甲子園に出場した思い出を語った。すると、複数の先輩教員から同じことを言われた。 「あいつらは授業が終わった後、他の生徒たちと一緒に掃除もしとったもんね」 横手監督は自身の高校3年間を振り返り、返す言葉がなかったという。甲子園を目指して練習を最優先するあまり、授業後はすぐにグラウンドへ向かっていた自分の姿を思い出したからだ。在籍した3年間、一度も甲子園には手が届かなかった。 「甲子園は目標であって、目的ではない」。横手監督は今、選抜出場が決まってからも繰り返し部員たちに言い聞かせている。 ある日の練習後、日が落ちたグラウンドで防護ネットに顔を近付け、目をこらす一人の部員の姿があった。「ネット管理班」の中本景土(けいと)選手(2年)だった。約40台あるネットに、小さな破れなどがないか目を光らせていた。「練習中のみんなの安全を自分が守るという責任感が生まれた」。そう言って中本選手は照れ笑いした。 「班行動を通じ、選手たちが練習内容を提案することも増えた。その傾向は昨秋、試合で勝ち上がる度に高まっていった」。確かな手応えを、横手監督は感じている。【清水晃平】