ラーメン官僚が語る、失われた30年とラーメン30年史「素材の価格高騰、ウクライナ問題も」
「失われた30年」とラーメン30年史
さて、ここまでラーメンの進化について語ってもらったが、96年の「ラーメン界の明治維新」(青葉、くじら軒、武蔵がオープン)から今年で28年。まさにラーメン官僚がラーメン漬けとなってきた年月とほぼ重なるが、「失われた30年」と言われるこの国の経済的な停滞とも重なる。先進国で唯一、30年間賃金が上がらず、平均賃金を韓国に抜かれ、GDPを中国とドイツに抜かれてきた歴史だ。そのような世相とラーメンの世界はどのようにリンクしてきたのだろうか。 「96年というのは、ラーメンのあり方が変わった元年だと思っています。95年までは、特に東京では夜遊びのあとに食べるものでした。それがバブル崩壊後、時世も変わり、そんなに夜遊びをしなくなり、ファミリー向けのラーメン店が増えていった。また、もともとロードサイドに多かったラーメン店ですが、新しい趨勢として、駅近の店も多くなっていきました。そんな90年代後半、ラーメンの値段は600~700円だったと思います」 そこから2010年代前半まで、だいたい700~800円で推移していたという。そうして21年頃、「1000円の壁」が突破されるという歴史的事件が起きる。24年の現在、1000円超のラーメンは普通に見かけるようになった。賃金が上がらない中、なぜ、ラーメンは値上がりしていったのか。 「素材の価格高騰です。ウクライナの問題もあるでしょう」 そんな中、ラーメン官僚が危惧するのは食べ歩きの「後継者不足」だ。 「一杯1000円以上になると、学生や20代の社会人がラーメンの食べ歩きを始めようって時、つらいですよね。それくらい、ラーメン価格の上がり幅が大きい。重要な問題で、後継者不足を心配しています」 これほど値上がりしてもラーメン人気は衰えないのだから、考えてみればすごいことである。 そんなラーメン官僚の「夢」は、「いつかまた、個人のラーメン本を出したい」というもの。90~2000年代、ラーメン本は毎年出ていたものの、出版不況もあり難しくなっている現状があるようだ。 「あとは、ラーメン店があると言われている自治体を全部回りたい。すべてを制覇したいですね」 前編で前述したように、現在、年に700杯食べているわけだが、それでは出店のペースが上回り、取りこぼしてしまう店が出てくるのだという。 「どれだけ食べてても、途中で止まったらその一年後にできたラーメンを知らない状況になるわけです。だからこそ、年齢が上がるにつれ、ある程度食べ方もうまく変えつつ、続けたいですね。80歳で月60杯は食えないと思うので。ふと思うことは、死ぬのが嫌だな、ってことですね」 見果てぬ夢の中、絶対に辿り着けないゴールを目指すラーメン官僚の旅はこれからも続く。
ENTAME next編集部