深刻な「人手不足」は国のかたちをガラリと変える…意外と知らない「これからの日本経済の姿」
市場メカニズムが引き起こすストレスにどう向き合うか
今後、日本の人口が減少していくなか、世界経済における日本経済のプレゼンスが相対的に縮小していくことは避けられない。 しかし、人口減少が経済全体の生産性の伸び悩みや人々の生活水準の低下につながるかまではわからない。今後の展開として、若者人口の減少が社会全体のイノベーションの停滞につながる可能性もあれば、人手不足の圧力が日本経済の高度化を促すシナリオもありうる。 もっとも、今後、市場メカニズムが原動力となる形で日本の経済構造が転換していくことになったとしても、それは簡単な道のりではない。 賃金の上昇は企業に変革を迫る要因になるが、それと同時にこうしたストレスを乗り越えられない企業は、市場から容赦なく淘汰されていくことになるだろう。物価が上昇し、人手を介したサービスの提供が制約されていくなかで、消費者はこれまで享受してきた価格のつかない質の高いサービスを手放す必要に迫られる。労働者はこれからの経済の局面で最も多くの利益を享受する主体になると考えられるが、デジタル技術がビジネスの現場に浸透していくなかで、新しいスキルの習得は労働者にとっても避けられない課題となる。これからの人口減少局面においては、企業や消費者などの経済主体はこれまでとは異なるストレスを経験するはずだ。 そう考えれば、これからの日本経済が経験する局面がバラ色の未来ではないことは明らかだ。今後、人手不足を解消するために市場メカニズムは経済全体の生産性を向上させるよう強力な圧力をかける。そして、その過程においては、市場メカニズムがあらゆる経済主体に多大な努力を要請し、これらの経済主体はこれまでにない強い痛みを経験することになる。しかし、市場メカニズムが引き起こす痛みに向き合うことなしに、これからの日本経済の高度化が達成されることはない。 そうであれば、これから日本経済が経験するであろう市場メカニズムが引き起こす強いストレスに、社会全体としてどのように向き合うのか。 その姿勢如何は、日本社会の主体的な選択にゆだねられている。これからの人口減少局面に日本社会が直面する諸課題について、どのような論点や選択肢が残されているのか。以下、本書(『ほんとうの日本経済』)の最後として人口減少局面における政策的な論点を整理していこう。 つづく「人手が全然足りない日本に「外国人労働者をこのまま受け入れるのか」という重大な論点」では、今後の最も大きな分岐点となる「日本社会が人口減少そのものを受け入れるかどうか」について外国人労働者という点から掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)