屋根開きと屋根有り、どちらの方が高性能だと思いますか? マクラーレンの750Sのクーペとスパイダーを乗り比べる!
ポイントはカーボンバスタブ!
オープンとクーペの比較篇。そのトップバッターはマクラーレン750Sのスパイダー&クーペ。720Sから大幅な進化を遂げたマクラーレンの中軸モデルは、ふたつの車型が同時に発表されたが、クーペに遅れて、このほどスパイダーも上陸。その2台の試乗車を借り出して箱根へ向かった。モータージャーナリストの大谷達也とエンジン編集長のムラカミが試乗した。 【写真13枚】マクラーレン750Sのクーペとスパイダーの詳細画像はこちら クーペに「エンジンが見える小窓」があるのはびっくり!! ◆クルマ愛好家にとって永遠のテーマ 村上 最初に、どうして今回、オープンとクーペの特集を組んだのか、少し説明させて下さい。この特集には、「クルマを最大限楽しむための“悩ましい選択”」というサブタイトルをつけました。その背景にあるのは、いまの時代を象徴するキーワードである“ダイバーシティ(多様性)”です。たとえば、最近は電気自動車が増えてきて、ハイブリッドや純粋なエンジンを含めてパワートレインの多様性が増している。ボディ型式にしても、昔のようにセダンとハッチバックだけでなく、SUVやクロスオーバーなどもどんどん増えています。つまり、ある意味では、何でも選べるとても幸せな時代に私たちクルマ好きは生きているわけです。それでは、そんな中でディープなクルマ好きがクルマを最大限に楽しもうと考えた時に、一番頭を悩ませるのは、たとえばどんな命題なのか。そこで注目したのが、「オープンか、それともクーペか?」というテーマだったわけです。 大谷 確かにクーペかオープンかはクルマ愛好家にとって永遠のテーマではあるけれど、その悩みの中身は少しずつ変わってきた感じがある。 村上 そう。ひと昔前なら、オープンカーを買うのは結構、敷居が高い行為で、それこそ清水の舞台から飛び下りる覚悟がないと、なかなか決断できないものだった。 大谷 私がこの仕事を始めた30年くらい前でも、オープンカーといえば、まずソフトトップから雨漏りしないかとか、そういう耐候性のことが重要なテスト項目になっていました。 村上 そうそう。それ以外にもボディ剛性が低くてハンドリングや乗り心地が悪いんじゃないかとか、じゃあ、そのボディ剛性を高めていくと今度は車重が重くなって、動力性能が低下したりハンドリングの機敏さが損なわれるということが起きた。つまりオープンカーは剛性と車重の二律背反に苦しんできたわけです。 大谷 おまけにオープンのほうがクーペより高いんだから、オープンを買うにはかなり明確な意思が必要だったことは間違いありませんね。 村上 そうそうそう。それがいま、特に清水の舞台から飛び下りる覚悟がなくても買えるくらいに敷居が低くなっていると思うんです。まさに多様な選択肢のひとつになっています。しかも、いま私はオープンカーとひと言で括りましたが、実はここにもいろいろな多様性が存在しています。 大谷 というと? 村上 たとえばロードスター。これは英語ですが、直訳すると「道のヤツ」となる。いっぽうのスパイダーも英語で、これはクモみたいに道に這いつくばった背の低いクルマを指しているという説もあれば、ソフトトップを支える骨組みがキャビン側から見るとまるでクモの巣のように見えるからという説もあります。でも、私が最近なるほどと思ったのは、昔ルノー・スポーツ・スピダーってクルマがありましたが、あれは実は「スピードなヤツ」という言葉、すなわちスピーダーがなまってスピダーになったという説。 大谷 え? スパイダーのフランス語読みがスピダーじゃないの? 村上 もちろん読みはそうなんだけれど、実はスパイダーにはspyderとspiderという2種類のスペルがあるでしょ。 大谷 はい、そのとおりです。 村上 つまり、spyderはクモもしくはクモの巣が由来だけれど、spiderの方はスピードが語源なのではないか、というわけです。 大谷 へー、そうだったんですか! 村上 あと、アメリカにはコンバーティブルっていう言い方があるし、イギリスにはドロップヘッド・クーペという言葉がありました。 大谷 どちらも開閉可能、もしくはルーフの取り外しができるみたいな意味ですが、ドロップヘッド・クーペといえば、10年ほど前にロールスロイスがファントム・ドロップヘッド・クーペをリリースして、その名を現代に復活させましたよね。 村上 そしてフランス語でカブリオレという言い方もありますが、あれは「帽子をかぶっている」みたいな意味だそうです。もともと帽子ってオシャレなものだから、カブリオレといえばエレガントな意味合いも含まれていたと思われます。 大谷 たしかに、オープンを示す言葉はいろいろあって、もともとはそれぞれ別の形態のクルマを指している側面があったのかもしれませんが、いまはだいぶ形骸化してきて、ロードスターとカブリオレにどんな差があるのかといえば、ほとんど差がなくなっているような気もします。 村上 いずれにせよ、オープンってスポーティな乗り物でもあるし、エレガントな乗り物でもある。そして、そのふたつのさじ加減が、クルマのポジションやテイストを左右している実に多様性にとんだ存在だと思う。 大谷 それは間違いありませんね。 ◆スペック上では横並び 村上 というわけで、様々なクーペとオープンの楽しみを、どっちがいいか悩みながら考えてみようという特集なわけですが、さて、我々が今日試乗してきた2台の750Sはクーペとスパイダーと呼ばれている。 大谷 マクラーレンは初作の12Cをリリースした当時から、このクーペとスパイダーという言い方をずっと続けていますね。ちなみに、マクラーレンは“spider”派で、とある試乗会のプレゼンテーションでは、クモのように背の低いスポーツカーを意味しているという説明がありました。そもそもマクラーレンの場合、クーペもスパイダーも全高は変わらないし、キャビンから覗き込んでもソフトトップを支える支柱は見当たらない。そして、これが何よりも重要なポイントですが、私自身は、12C以来、スパイダーが用意されているマクラーレンについてはすべてクーペとスパイダーの両方を試乗してきましたが、その差は恐ろしく小さいというか、まったく感じられなかったということです。 村上 それはやっぱり、マクラーレンの全モデルに用いられているカーボンモノコックのおかげなのかな? 大谷 まさにそれです。というのも、マクラーレンのカーボンモノコックはバスタブ形状をしていて、ルーフ部分にボディ剛性を受け持つ構造体が存在していないからです。 村上 それでも、720Sや750Sのクーペには、ルーフの中央部分に前後をつなぐ支柱のようなパーツがあるじゃないですか。 大谷 ええ、ありますが、あれはあくまでもディヘドラル・ドアのヒンジを支持するのが目的で、ボディ剛性には影響がないというのがマクラーレン側の説明でした。 村上 へー、それは驚きです。 大谷 そうなんですよ。だから、ボディについては基本的に剛性の強化も不要で、したがってクーペに対する重量増は最小限で済んでいる。重量はたったの1440kgで、クーペよりも50kg重くなっているだけです。 村上 たったの50kg! でもレーシングカーのような性能を誇るマクラーレンにとっては50kgは決して小さくはないのでは? 大谷 少なくともスペック上では、0 -100km/h加速は2.8秒で横並びだし、0 -200km/h加速でもクーペが7.2秒でスパイダーが7.3秒と、その差はコンマ1秒でしかない。 村上 それだと自分で乗っても違いは感じられないだろうね。 大谷 ですよね。しかもボディ剛性は変わらない。つまり、クーペに対して失っているものが実質的になにもないのが、マクラーレン・スパイダーの特徴なんです。 村上 なるほどね。 大谷 しかも、マクラーレンはクーペとスパイダーでデザインがほとんど変わりません。 村上 エンジン・フードの部分が、クーペはハッチバック風、スパイダーはクーペ風になっているけれど、まあ、そのくらいだよね。 大谷 スパイダーの場合には、フライング・バットレスといって、真横から見るとまるでファストバックのように思えるパーツを取り付けることで、見た目の違いをなくしている。このフライングバットレスには、エアフローを整流する役割もあります。 村上 マクラーレンは、すべてのデザインに理由があると言っている。 ◆どこまでいっても悩ましい! 大谷 やっぱり、その辺はF1チームと密接な関係にある影響かもしれません。だから、私はオープン化されてもなにも失っていないマクラーレンのスパイダーが好きで、「もしも自分が買うことがあったらスパイダー」と決めていました。 村上 つまり、オオタニさんはオープン派なんですね。 大谷 ええ。まあ、正確には「マクラーレンに限っては」という注釈付きですが、ただ、今回の試乗で、その考え方が少し揺らぎました。 村上 というと? 大谷 2台並べてみると小さな違いがあることに気づいたからです。 村上 どんな違いがあったの? 大谷 たとえば、先ほどスパイダーにはフライング・バットレスがついていて、サイドビューはクーペと変わらないと言いましたが、運転席から見ると、シートのヘッドレスト後方にフェアリング状の盛り上がりがあって、斜め後方の視界がクーペほどよくないことに気づきました。 村上 なるほど。確かに高速道路の合流などでは注意が必要になる。 大谷 それでも、他のミッドシップスポーツに比べれば、はるかに視界は良好ですけどね。 村上 私自身もクーペとスパイダーではちょっと違うなあと感じました。 大谷 どこが違いましたか? 村上 剛性も速さもまったく変わらないという話でしたが、実際に乗ってみると、やはりスパイダーの方にはオープン由来と思われる振動や騒音があって、これはちょっと気になると思った。それにマクラーレンって、そもそもがグローブボックスもないくらいにピュアでストイックなスポーツカー・メーカーじゃないですか。そんなマクラーレンがオープンを作るって、堕落とまではいわないけれど、ちょっとふさわしくない感じがしてしまう。たとえば富士のストレートで270km/hから急減速しても、ノーズダイブも起きなければふらついたりもしない。そんな極限の走りを楽しむには、やっぱりクーペだと思うわけですよ。 大谷 でも、同じようなブレーキングはスパイダーでも楽しめますよ。 村上 たとえそうだとしても、先週は富士、今週はもてぎ、来週は鈴鹿みたいに、全国のサーキットでピュアに走りを楽しみたいような人には、やっぱりクーペをお勧めしたい! 大谷 そんな人には750Sより765LTがお勧めですが、こちらにもスパイダーとクーペの両方がある。 村上 つまり、どこまでいっても悩ましい問題であるということだね。 ■マクラーレン750Sクーペ(スパイダー) 駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4569×1930×1196mm ホイールベース 2670mm 車両重量(車検証) 1390kg(1440kg) エンジン形式 直噴V8DOHCツインターボ 排気量 3994cc ボア×ストローク 93.0×73.5mm 最高出力 750ps/7500rpm 最大トルク 800Nm/5500rpm トランスミッション デュアルクラッチ式7段自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル ブレーキ(前後) 通気冷却式カーボンセラミック・ディスク タイヤ (前)245/35ZR19、(後)305/30ZR20 車両本体価格(税込み) 3930万円(4300万円) 話す人=大谷達也(まとめも)+村上 政(ENGINE編集長) 写真=茂呂幸正 (ENGINE2024年6月号)
ENGINE編集部
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