誹謗中傷にバイトテロ、“指”で稼ぐ記者まで…バカばっかりの「X」にへきえき 誕生から18年、ナゼこうなったのか(中川淳一郎)
ツイッター(現X)が誕生してから今年で18年、日本で利用者が増えてから15年、爆発的に増えてから13年となりました。いろいろとXをめぐる空気感は変わったので懐かしの歴史を振り返ってみます。今と見える景色が全然違います。
2006年から2008年は「ギーク」と呼ばれるIT系の人々やガジェット好きな人々が使っていました。この頃は、穏やかで、知的な会話が展開されていた時期です。 2009年になると水道橋博士さんや勝間和代さんら著名人も利用を開始し、裾野が広がりました。勝間さんは歌手の広瀬香美さんに使い方を公開で教えてあげ、そのやり取りがほほ笑ましいと評判に。 広瀬さんは同年11月「日本初・ツイッターライブ」を開催するに至ります。ITメディアニュースの記述は以下のようにあります。これが、実にシュールなんです。 〈歌い終えた広瀬さんは大きな拍手をバックに愛用のPCの元へ走り、黙々とつぶやき始めた。「私、しゃべりたくてしょうがないですが、しゃべらないです! つぶやくコンサートなのですわ!」〉 2010年1月に発売された週刊ダイヤモンドの大特集は「2010年ツイッターの旅 140字、1億人の『つぶやき』革命」でした。これがツイッターのブームを決定付け、各種メディアが取り上げるようになったのです。 「怒りのあまり声を上げたこと」みたいな女性誌の特集ではツイート風のデザインで「旦那が『今晩はうどんぐらいでいいよ』と言った時は殺意を覚えた」などと読者投稿を紹介。
そしてツイッターについて語るイベントが東京や大阪で頻繁に行われていましたが、自己紹介の時は「140文字以内でお願いします」と司会者が注意を言う。初期の頃は皆笑ってましたが、すぐに「あぁ、そういうの寒いんでやめてもらえます?」と誰も笑わなくなっていった。 東日本大震災の時に電話がつながらなかったがツイッターはつながったということで、高く評価され、以後日本ではユーザーが激増。とまぁ、ここまでがツイッターの幸せな時代でした。 で、今のXはどうか? 「バイトテロ」を含むバカッターが猛威を振るい、誹謗中傷だっ! 開示請求だ! 名誉毀損の裁判だ! みたいなことばかり。河野太郎氏を含めた政治家は自分に批判的なユーザーをブロック! ツイッターの誹謗中傷に病んで自殺をした木村花さんというプロレスラーもいました。 災害の動画やら超満員電車の映像を公開する人がいたら、お手軽メディアの記者は「〇〇という番組の××と申します。その動画を使わせていただきたいので、フォローいただいたうえでDMでやり取りさせてもらえませんでしょうか」と、足で稼がず指で稼ぐ。 さらに、ネットニュースでアクセスを稼ぐのは著名人によるXへの投稿を紹介する記事。投稿を区切って「と持論を述べた」「これに対し『素敵です』などと称賛の声が上がっている」というやつです。 ユーザーが増えたらバカ度が増す、というネットに対する私の持論はまたも証明されたのでした。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。 まんきつ 1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。 「週刊新潮」2024年5月30日号 掲載
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