「入場者数に応じてクラブ支援金を贈呈」。浦和レッズの集客を支えるパートナー企業の新たな取り組み
Jリーグは2024シーズンのリーグ戦(J1・J2・J3)で史上最多となる1193万2080人の入場者数を記録した。J1が20クラブになったこと、各クラブが集客注力試合を設定したこと、国立競技場開催試合を戦略的に増やしたこと、新スタジアム効果などその要因は多々あるが、その中で2シーズン連続「Jリーグ集客ナンバーワン」に輝いたのが浦和レッズだ。 今季の浦和のJ1ホームゲーム総入場者数は71万2852人(1試合平均3万7519人、埼スタでの土日祝日開催試合は平均4万人超)。1シーズンの総入場者数が70万人を超えるのは2009年以来、15年ぶりのことだった。浦和の集客力は以前からJリーグでもダントツで、初めてJ1を制した2006年から2019年まで14シーズン連続でリーグトップを堅持していた。その後、新型コロナウイルスによる入場制限などで2020年、2021年の総入場者数は10万人代まで落ち込んだが、直近の2年間でコロナ禍以前の水準にまで戻した形だ。 この入場者数のV字回復を陰ながら支えたのが、2020年からオフィシャルパートナーとしてクラブを支援する「株式会社ビタブリッドジャパン」のある取り組みだ。ビタブリッド社は昨年から浦和のJ1ホームゲーム入場者数に応じてクラブに支援金を贈呈する『参戦レベルアップ賞』という企画を実施。今季は入場者数3万人超で30万円、4万人超で100万円、5万人超で200万円というインセンティブが設定され、シーズン終了を待たずに支援金は設定の上限に達した。 ビタブリッド社は2014年創業、ヘルスケア・スキンケア製品の通販事業を中心に頭角を表した成長企業だ。「最大よりも最適」を追求し、市場の最大よりも誰かにとっての最適価値を多く生み出せる企業でありたい、100人中100人が買うものより、100人中20人しか買わなくても、その20人にとって最適な商品を生み出したいというビジョンを掲げている。主要商品の一つで子ども向け成長期応援飲料『レベルアップ』などは浦和のファン・サポーターなら聞きなじみがあるだろう。 そんなビタブリッド社が浦和のオフィシャルパートナーになったのは、自らもレッズサポーターだという代表取締役CEO大塚博史さんの存在が大きい。「正直に言えば、私がレッズを好きだったことがきっかけです(笑)。中学1年生のときにJリーグが始まり、レッズと出会って応援するようになって、大学生の頃にはおぼろげながら『将来、レッズのためになることができたらいいな』と考えていました」 今回の『参戦レベルアップ賞』の仕掛け人でもある大塚さんは、この取り組みが始まった経緯を次のように振り返る。「我々はいわゆるD2C企業で、通販、ダイレクトマーケティングの手法でいろいろなビジネスを展開しているので、そのほとんどは“費用対効果”が見えるんです。一方で、せっかくレッズのパートナーになっても、例えばスタジアムに看板を出すなど既存のメニューだけではどうしても費用対効果は見えにくい。それで、もっと費用対効果が見えやすい企画にトライしてみたいという思いがあり、クラブと一緒に新しいメニューを作ってきました」 パートナーの一員になって以来、クラブの担当者と打ち合わせを繰り返す中で、大塚さんが重視してきたのは「レッズにビジネスで成功してほしい」という思いだった。「クラブに優勝してほしい、勝ってほしいというパートナー企業の方は多いと思いますが、私の場合は、レッズが世界的なチームになるためには、ビジネスでもさらに成功する必要があるという思いが常にありました。ビジネスとしての成功……その基準を私は勝手に“売上200億円規模のクラブ”に設定していましたが、そうなればおのずとチームも強くなるし、世界で戦えるようなチームになるのではないかと。そのための手段の一つとして、もっとたくさんの人にスタジアムに来ていただいて、より素晴らしいスタジアム環境、より高いエンタメ性を作っていくことも大切だろう、と。かつて4万人超は当たり前、5万人がスタジアムに集まることも多々あった時代を知っているだけに、その思いは強かったですね。例えば3万人しか入らなかったとしても、その3万人の一人ひとりが友だちを一人だけでも連れてきたら6万人になる。クラブにはそういうきっかけになるようなことがしたいと相談していたと思います」 『参戦レベルアップ賞』はそんな思いを具現化する施策だった。「これまでも誰々がゴールを決めたらとか、西川(周作)選手がスーパーセーブをしたら、というような企画はあったと思いますが、選手にがんばってもらうだけでなく、私も含めてサポーターにももっとやれることがあるんじゃないかという考えがありました。SNSでチームの悪口を言うことよりも、我々はスタジアムに行くべきだと。スタジアムに人が集まれば、当然ビジネスとしてもプラスになりますから。サッカーの試合では相手がいて勝ち負けがある。そこはどうすることもできないけれど、僕らが知り合いを一人連れていくだけでスタジアムは満員になり、『参戦レベルアップ賞』を通して愛するクラブに強化支援金が入る。サポーターにもすぐに行動して成果にできることがいろいろあるんだということがメッセージとして伝わったらいいなという思いで、新しい枠、広告枠としてクラブに作っていただきました」 この取り組みに対する反響は大きく、同業の経営者仲間やサッカー関係者から「面白いことをやっているね」「こういう企画は見たことがない」「こんな成果報酬型の企画もあるんですね」と声をかけられたという。選手からも「あの企画をやっている会社ですよね」と認知されていた。大塚さんの仲間であるサポーターの間でも話題になった。「『俺たちがあと百数十人連れてくれば、ビタブリッドからもう100万もらえるぞ!』という感じでSNSで盛り上がっていましたね(笑)」 結果、『参戦レベルアップ賞』の支援金は設定の満額に達した。企画は大成功、ビタブリッド社にとっては“うれしい悲鳴”だが、想定以上の支出だったことも否定できない。なぜそこまで浦和に寄り添うのか。その理由を聞くと大塚さんは笑顔でこう話した。「企業経営者としての人格と一人のサポーターとしての人格は矛盾してしまう部分もありますが、やっぱり自分が好きだからということが根底にあります。家族ことを想うのに理由がいらないように、私にとってレッズは人生の一部であり、家族なんです。だから、ビジネス的な理由を話すと“後付け”のように聞こえてしまうかもしれませんが、何度も言うように費用対効果が良いビジネスでないと成長はできないので、今後もいろいろなトライをしていきたいと思っています。スポーツマーケティングの世界は胸スポンサーや看板のような伝統的な手法もまだまだ多いですが、そうではないやり方もきっとたくさんある。我々のようなダイレクトマーケティング・D2C(通販)企業が発想する新たな仕組みを作ることができたら、業界に新しい風を吹かせる一助になるかもしれません」 『参戦レベルアップ賞』を継続していきたいという大塚さんは、今後のビジョンについて次のように話した。「とにかく費用対効果が見えるものをどんどん作っていきたい。費用対効果が見え、そして実際に効率が良ければ、我々もそこに何倍も投資できますし、ビジネスっていろいろな形があると思うので、クラブと一緒にそう言う仕組みを開発、発明していきたいです」 コロナ禍を経て入場者数は着実に増えている。だが、クラブとビタブリッド社が目指す理想の集客は「Jリーグナンバーワン」ではなく、「常に満員のスタジアム」だ。具体的にはホームゲームの平均入場者数が4年連続で4万人を超えていた2000年代後半の水準に再び迫ること。ビタブリッドジャパンとの取り組みはその実現への大きな後押しとなるはずだ。 取材・文=国井洋之
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