「山に登ってみては?」…オードリー・タンが「AI嫌い」な人々に山登りをオススメする納得の理由
コロナ禍において国民全員にマスクを配布するシステムをわずか3日で構築し、世界のグローバル思想家100人にも選出された若き天才オードリー・タン。自身もトランスジェンダーであるタン氏が、日本の若者に向けて格差やジェンダー、労働の問題からの「解放」をわかりやすく語る『自由への手紙』(オードリー・タン著)より抜粋してお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『自由への手紙』連載第30回 『バイリンガル政策を推し進める台湾から学ぶ、「言葉の壁」を取り払うことがもたらす最大のメリットとは』より続く
AIが怖くない2つの理由
私はAIが脅威であるという論調については懐疑的です。 労働力には限界があり、有限なものなのだという見方は疑わしいとも思います。シンプルに、世界の労働力に限りがあるとは考えていません。 それには2つの理由があります。 1、テクノロジーで労働力を補うことができる 2、テクノロジーは認知労働も供給しうる 順番に説明しましょう。 労働力が足りない――つまり労働の「量」が欲しいというとき、工業ロボットの助けがあればどうでしょう? 人を集め、働き続けてもらうのは大変なことでも、ロボットであればあっという間に何台も確保できます。 繰り返しの単純な構造の労働については、人間が行っているほとんどの労働は自動化できます。そして実際に、世界中でありとあらゆる機能が自動化に向かっています。 つまり第一の理由、「テクノロジーで労働力は補える」というのはすでに現実化していることです。
「AIが本を書く時代」知的な仕事もAIがこなす
「それは量だけが必要な仕事であって、知的な仕事はロボットでは無理だ」という意見もありますが、人間が行う労働の「質」とロボットの行う労働の「質」に大きな違いがあるということについても、私は疑問に思います。 私たちがテクノロジーによる代替が難しいと考えている知的な仕事、つまり認知労働についても、今や文章生成言語モデルGPT‐3などが状況を一変させています。 仮にあなたが本を書こうとしているとして、ひたすらキーボードを叩き続ける時間が確保できないとしても、GPT‐3に初動の構想と一連の動作さえ指示すれば、残りは仕上げてくれます。 まだ完全とは言えませんが、こうしたテクノロジーによる認知労働も労働の自動化を促進してくれるわけです。だから私は、認知労働についても肉体労働についても、労働資源が有限なものだとは考えていません。 これが第二の理由、「テクノロジーで認知労働も供給しうる」ということです。