公教育とオルタナティブスクールの連携に見た光 子どもたちの育ちを支える共同体のあり方
オルタナティブスクールと連携して公教育もアップデート
令和5年度学校基本調査(速報値)によると、日本の小学生の98.3%が公立小学校に通っている。日本全国どこにいても同じ教育が受けられるというよさがある一方、この選択肢の少なさが不登校の増加など、さまざまな問題へとつながっている。そんな中で、ここ日本でもいわゆる公教育といわれる一条校以外で学ぶ子どもたちが少しずつ増えている。教育ジャーナリストの中曽根陽子氏が、神奈川県葉山町にあるオルタナティブスクール、ヒミツキチ森学園を取材した。 【写真】一条校とは学び舎の雰囲気もまったく異なる オルタナティブスクールという言葉を知っていますか? 日本では、オルタナティブスクールは、一般的な公立や私立の学校とは異なる「新たな選択肢の学校」という意味で使われることが多く、近年注目が集まっています。 厳密に言うと、オルタナティブスクールもフリースクールの1つですが、一般的にはフリースクールは不登校や引きこもりになった子どもが昼間過ごす居場所の意味合いが強いのに対し、オルタナティブスクールは一条校(学校教育法第一条に定められた学校の総称)ではない、「もう1つの学校」を指す意味で使われることが多いようです。 あえて一条校にはしない選択をした学校といってもいいかもしれません。ここ数年、相次いでオルタナティブスクールが開校し、その存在がクローズアップされることが増えてきました。 今回、その1つ神奈川県葉山町にあるヒミツキチ森学園に行ってきました。
「自分のどまんなかで生きられる愛とギフトの世界」とは
ヒミツキチ森学園は、2020年4月に開校しましたが、ことの始まりは遡ることさらに3年前。運営母体の一般社団法人PLAYFUL代表で学園校長の小林千峰さん(以下、ちほやん)が、幼児教育に携わった経験から、角を取って丸くするような既存の教育に違和感を持ったことから始まりました。 その答えを探そうと訪れたデンマークやオランダで社会や教育のあり方を見てインスパイアされ、日本に帰国する機内で、「学校をつくろう!」と決意したのです。決まっていたのは「自分のどまんなかで生きられる愛とギフトの世界」をつくるというコンセプトだけでした。 「デンマークの教育のフィールドにあった、人が人として生きることを大切にしていることに感銘したことから始まりました。自分のどまんなかで生きたい人が、自分のどまんなかで生きられる。自分のどまんなかにその人がいることで、誰かのギフトになっていく世界を見たい。そのためには、まず子どもたちが自分のどまんなかで生きられる学校をつくることから始めようと思った」とちほやん。 「それってどういうこと?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、私もデンマークの教育を視察してから、「思ったなら一歩踏み出すべし!」とそんな気持ちにさせられ、人生がシフトチェンジした経験があるので、その思いはよくわかりました。 翌年、キックオフイベントを行い、どまんなかの思いを伝え、共鳴してくれた300人以上の人たちが集まって、カリキュラム部・クラファン部・舎作り部などそれぞれのどまんなかだと思うプロジェクトチームに参加。思いを重ねながら学校づくりを行い、2年かけて今の場所(神奈川県葉山町)に開校しました。 トップダウンで組織運営するのではなく、対話によって共につくっていくというスタイルにこだわったと、ちほやんは話します。カリキュラムをつくる過程でも、最初は学習指導要領による教育に批判的な声が上がって、日本の教育を否定するような雰囲気になっていったことに、すごくモヤモヤしたと言います。 しばらくは静観していましたが、悩んだ末、いったん初心に返ろうと、勇気を出してカリキュラム部を解散。もう一度、「何のためにオルタナティブスクールを立ち上げるのか」という原点に立ち返って考えることにしたのです。 そして、改めて学習指導要領を読み込んでいくうちに、そこに書かれていることは、決して自分たちがやろうとしていることと相反することではないと気づいたそうです。そして、日本の学習指導要領をマッピングしながらカリキュラムをつくり、オランダのイエナプラン教育とデンマークの教育の指針を土台にしたスクールを立ち上げたのです。