学費補助で球児の夢支援 愛知のNPO「地方創生モデルに」
アルバイト先は働く学生に対し、アルバイト代と通信制大学の学費を補助する―。経済的な理由で大学進学が困難な高校球児を対象にした新しい支援制度を、愛知県常滑市に拠点を置くNPO法人ルーキーズが今春から始める。同市内の中部国際空港(セントレア)で航空機の清掃作業を行う企業が協力。学生は市内で学んで働き、NPOがつくる社会人野球チームで野球に打ち込む。同NPOは「若者が地域で育って働く地方創生の1つのモデルにしたい」と意気込む。
通信制高校の学習しながら社会人野球でプレー
高校球児を対象にする理由は、同NPOが行う活動にある。ルーキーズは、さまざまな事情で高校を中退し、野球を一度あきらめた若者を対象に、勉強と野球を教えている。 生徒は通信制高校の学習をしながら、社会人野球チームでプレーする。2016年1月末現在、全国から集まった37人が在籍。寮生活しながら高校卒業資格の取得に励み、野球では社会人野球の全国大会である都市対抗野球大会に参加して、頂点を目指している。 活動開始から5年。卒業生を送り出す中で、母子家庭などで経済的に厳しく、大学進学をあきらめる生徒も。この現状に同NPOの山田豪理事長(47)は「野球をする人は、協調性があって、体力もある人が多い。ここに集まってきた生徒は人生のどん底からはい上がる経験も積んでいる。また路頭に迷うような思いをさせたくない」と一念発起。地元企業に売り込みをかけた。
1日5~6時間 協力企業でアルバイトとして働く
「通信制大学で学ぶ球児のスポンサーになりませんか」と働きかけたところ、セントレアで航空機の清掃業務に携わる企業が賛同。体力勝負の現場だったことや、空港の特殊なセキュリティー上の理由から、大学生の人材を必要としていたことなど、両者の希望が一致した。 制度を利用する学生は、常滑市内の同NPOの施設などで週3~4時間、通信制短期大学(2年制)の学習指導を受けながら、1日5~6時間程度、協力企業でアルバイトとして働く。 野球の練習も1日3時間程度参加する。協力企業はアルバイト代(時給1000円程度)と、通信制大学の授業料を補助する。短大卒業後、4年制大学への編入も可能とした。
貧困の連鎖を止めたい
協力企業の負担が大きく見えるが、求人広告を出したり、人材派遣会社に依頼したりする費用と、今回の制度に協力する場合の費用差は、あまりないという。アルバイトで評価された学生はその企業に正社員登用されたり、制度を利用する学生も「大学費用を補助してくれた会社」と恩を感じて、その企業で働き続けたりする可能性も秘める。 初年度は10人ほど希望者を募る計画で、2016年1月末時点で5人が応募している。山田理事長は「何か困難にぶつかっても、乗り越える人材になって、常滑で働き続けてくれたらうれしい」と述べ「家庭が貧しくて進学をあきらめるという貧困の連鎖を、止めたい」と夢を語った。 (斉藤理/MOTIVA)