英ボクスホールがEVとハイブリッドを同価格で販売、この大胆戦略の背景にあること
ステランティスグループ全体による量産効果は大きい
ボクスホールは、なぜ今回のような価格設定を行ったのだろうか。まずは、HVとEVの違いを確認しておこう。 上述のとおり、ベースモデルは同じステランティスグループの新型シトロエンC3エアクロスだ。基本は2列シートながら、HVは3列シート車=7人乗りの選択も可能なユニークなコンパクトSUVである。新型フロンテラは、これにオペル独自の外観デザイン(と一部内装および装備)を与えた事実上の双子車だ。 パワートレーンもC3エアクロスと共用だ。フロンテラHVは、1.2L直4ターボエンジンにモーターと6速デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせたマイルドハイブリッド。モーターの出力は21kW(28ps)、エンジンには100ps仕様と136ps仕様がラインナップされる。 一方、フロンテラEVは前輪に113psを発生するモーターを搭載しており、44kWhのLFPバッテリーを組み合わせている。航続距離は300km(186マイル:WLTP暫定値)とさほど長くはないが、2025年には54kWhバッテリーを搭載したロングレンジモデルも追加されることがアナウンスされており、こちらは400km(248マイル:同)の航続距離を実現するという。 そして、このコンパクトなシャシコンポーネンツやパワートレーンは、シトロエン車だけでなくステランティスグループの各ブランドで採用が進んでいる。ジープアヴェンジャー、アルファロメオジュニア、ランチアイプシロン、プジョーe-208ほか、Bセグメントの量販車を中心に採用車種が拡大している。 つまるところ、各車の開発コストはゼロから始めた場合と比べてかなり抑えることが可能になり、(もちろん、グループ内で応分の負担はあるはずだが)。その量産効果は莫大で、車両価格の調整幅もブランドや販売国・地域の状況に応じて設定することが可能になる。
エンジン車の新車販売禁止を2030年に戻した英国の事情
ボクスホールのマネジングディレクターを務めるジェームズ・テイラー氏は「今年末までにすべてのボクスホールの乗用車とバンにフル電動バージョンを用意する」と語った。「手頃な価格の新しい特別版であるCorsa Electric YES Edition、Mokka Electric Griffin、Astra Electric Griffinなどを通じて、EVへのアクセスの民主化をリードしています。ニューフロンテラの発売により、ボクスホールはEVによく適用される定価プレミアムを撤廃し、EVとHVの両方を同じ定価で提供することにしました。わずか2万3495ポンドのNew Frontera Electricは、英国中の誰もが電動モビリティを利用できるようにするという当社の使命における重要なマイルストーンなのです」。 このコメントと関係がありそうなのが、今年7月に14年ぶりに誕生したスターマー新首相による労働党政権。スナク首相の保守政権時代に2035年に先送りされたガソリン車の販売禁止時期が、政権交代により再び2030年に戻された(同月)。スターマー首相は「我々はカオスに終止符を打つ」と宣言したが、英国内ではあと5年余りで内燃機関搭載車の新車販売ができなくなる。 となれば、すでに英国では本格化しつつあるEVシフトは今から始めないと間に合わない。EVの普及を加速させるとともに、5年後にはEVのプライスリーダーとなるための布石をいち早く打ち出したとも言える。ちなみに、英国自動車工業会(SMMT)が8月5日に発表した7月の新車登録台数は前年同月比2.5%増の14万7517台となっており、ガソリン車は5.9%減でシェアは52.1%、ディーゼル車は21.9%減で5.9%まで落ち込んでいる。対してEVは18.8%増で同18.5%、HVは31.4%増で同14.5%、PHEVは12.4%増で同8.9%、つまり、EV、HV、PHEVはすでに成長著しく、純内燃機関車はその存在感が著しく後退している様が見て取れる。 さらに言えば、中国勢の進出に対する警戒感もうかがわれる。かつて英国ブランドだったMGは現在は上海汽車(SAIC)の傘下にあり、生産は中国、タイ、インドで行われている。手ごろな価格とMGのブランドは健在で英国内で販売を伸ばしているが、今後はBYDなど大手が本格的に攻勢を強めてくることが予想され、ボクスホールとしても中国勢との価格競争に備えておく必要はあるのだろう。 ステランティスグループによるブランドごとの作り分けによるコストダウン、英国政府の政策変更、そして今後予想される中国製EVの攻勢。この3点が今回の大胆な販売戦略の背景にあるのではないだろうか。