『GQ JAPAN』独占インタビュー!──羽生結弦の挑戦
オリンピック2連覇を果たし、2022年にプロに転向した羽生結弦。全てセルフプロデュースのアイスショーという新しい表現に挑戦する稀代のフィギュアスケーターが、グッチの新クリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノが手掛けたアイテムに身を包み、カメラの前で舞った。 撮り下ろしの写真を見る
羽生結弦が歩む唯一無二の道
スタジオに入り、フォトグラファーの水谷太郎と二、三、言葉を交わした羽生結弦がなにかに納得したようにスマートフォンを操作した。スピーカーから流れてきたのは、たおやかなピアノ曲。それは昨年逝去した坂本龍一が娘のために作曲した『aqua』だった。曲に身を委ねるように、しなやかに体を動かす。スタジオは美しく、凛とした緊張感が漂う、誰も踏み込むことのできない空間へと変わっていた──。 「真上のライティングを見て、太陽みたい、天国からの光のようだと思ったんです。さらに水谷さんから『上を見てほしい。上を見て、なにかを考えてほしい』という言葉を投げかけられて、これは“祈り”だなと思い、そのイメージに合う『aqua』を選びました」 フィギュアスケート選手として、オリンピック2連覇、世界選手権優勝2回、グランプリファイナル4連覇など、ありとあらゆる栄光を獲得。国民栄誉賞も受賞した。2022年、「羽生結弦としての理想を追い求める」としてプロスケ ーターに転向。以来、自らをプロデュースする形で、東京ドームやさいたまスーパーアリーナなどで数々のアイスショー、単独公演を開催してきた。 「プロに転向しても根本の部分に変化はないと思っています。もともと自分が表現したい世界や、フィギュアスケートが持つアーティスト性とアスリート性は変わってない。ただ、深まっていたり広がっていたりということは実感しています。競技の時にはルールというものが常に存在していて、こういう演技をしなくてはいけないというようなことがありましたが、ショーの世界では、それらを取っぱらうことができる。一方で、360度の観客全員に満足していただかなければならないし、会場で流れる映像などの制作にも頭を使わなきゃいけないし、自分の思いを伝える言葉も考えなければならない。これまで考えなかったような部分にまで思考を広げ、より深化させているという状況です」 ミュージシャンが音楽を奏でるように、アーティストが絵筆を走らせるように、羽生は自らの身体を使って、自分自身を表現する。 「楽しいのは、やっぱり皆さんに観ていただいて、そこでさまざまな感想が飛び交い、いろいろに考察され、人それぞれ解釈していると実感できること。自分が作っているのは、“道”だと思うんです。価値観だったり、背景だったり、過去だったり、未来だったり、そういったものが道になり、その道の途中で自分でも気づきがあったり、感じるものがあったり。僕はそれを観客の方に観てもらい、共有してもらう。その道が楽しかったって、歩いてきてよかったって思ってもらえると、やっぱりうれしい。それが幸せだから、この道を歩き続けられるんだと感じています」 ルールに縛られ、競うことを強いられた競技時代よりも自由に自身を表現、創造できる現在のほうが楽しいのではないか。そう訊ねると、羽生はしばらく考えた後、そのことを否定した。 「楽しいだけだとダメだと自分は思ってしまうんです。競技時代から、試合は楽しむものではないとずっと思っていて、それは自分の哲学として絶対に揺るがない。楽しんでやるからこそいい演技ができるという方もいるし、それが正解だという方々の考え方もよくわかります。でも僕の場合、自分が楽しんでしまうと真剣味に欠ける気がしてしまう。失敗したら崖から落ちるような、緊張感があるからこそ出てくる演技が存在していて、それがあるからこそ日々の練習、研鑽ができる。クリエイティブの分野でも、なにかを作るということに対して、楽しいだけじゃダメだなって。もちろん楽しみがそこにあるからできてはいる。そして、誰かがそれを観て楽しんでくださるから作っていける。それが僕の喜び、幸福にも繋がっている。ただ、その幸福だけを味わい続けてしまうと、最終的に中身のない嘘の言葉、嘘の世界観になってしまうのではないかという思いも持ち続けています」 羽生は表現者として、自らに足りないものもあると感じているという。それは「語彙力」だ。 「身体表現にも語彙力が必要。手をほんの少し動かしただけで景色を見せるには、そのための技術を知らなければならない。こういうふうに手を動かせば美しく見えるということを学び、体に刻み込んで、神経に勉強させて、脳にも勉強させて、やっとできるようになっていく。僕がプロのダンサーやバレリーナと同じように踊れるわけではない。でもフィギュアスケートを20何年間もやっているからこそ、彼らの技術を学ぶことで、新しい表現が生まれる可能性はある。とことん勉強して、それを氷上でやることができたら、それは唯一無二の存在になれるのではないかと思っているんです」 そこにゴールはない。競いあうライバルもいない。だが、彼は脇目もふらず、ひとりその道を突き進む。 「氷上は僕にとって“母国語”みたいなものなので(笑)、そこから離れてしまうと羽生結弦ではなくなる。4歳から培ってきた知識と経験と魂がそこに存在しているし、心の底からの自分を表現できる場所。もちろんいつか年齢的な衰えは出てくるでしょう。ただ、僕がこの先、あと30年間、フィギュアスケートという“言語”に付き合い続けたら、その年になったからこそ出てくる表現、その時にしか出せないフィギュアスケートっていうものが存在するかもしれないと思って。僕はその可能性があると信じているし、その可能性のために挑み続けなければならないと思っているんです」 羽生結弦は唯一無二の羽生結弦として、氷上での表現にこだわり、歩み続ける。 羽生結弦/プロフィギュアスケーター 1994年生まれ、宮城県出身。4歳からフィギュアスケートを始め、世界選手権2回優勝、五輪2連覇など数々の偉業を達成。2018年に国民栄誉賞受賞。2022年7月にプロスケーターに転向。自らがプロデューサーとなり、スケーター史上初となる単独東京ドーム公演「GIFT」を開催、ツアーなどを行う。 グッチ銀座 ギャラリーにて羽生結弦をフィーチャーした写真展を開催 In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami 会 期:2024年5月22日(水)– 6月30日(日) ※会期中無休 場 所:グッチ銀座 ギャラリー 東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座7階 時 間:11:00-20:00 (最終入場 19:00) 入 場:無料(事前予約制) 5月15日より グッチ LINE公式アカウント(@gucci_jp)からご来場予約が可能。 グッチ LINE公式アカウントを友だち追加して予約。 PHOTOGRAPHS BY TARO MIZUTANI STYLED BY TETSURO NAGASE HAIR STYLED BY TAKU @ VOW-VOW FOR CUTTERS MAKE-UP BY COCO @ SEKIKAWA OFFICE WORDS BY KOSUKE KAWAKAMI 【お知らせ】 アザーカットを、Instagramに近日投稿予定! @gqjapan をフォローしてお待ち下さい。お楽しみに! GQ JAPAN公式Instagramアカウント:https://www.instagram.com/gqjapan/