【イマドキの大学ゼミ】仮設トイレの「悪臭」を解決する イベント会場に行って実験も
企業の課題を学生目線で解決
安田ゼミでは毎年、学生たちが身近な社会問題に着目して、どう解決するか、どうビジネスに落とし込んでいくかを考えていきます。安田教授は、前田さんがゼミに入った年度から、新しい試みとして、企業とのコラボレーションを行うことにしました。 協力してくれたのは、創価大学の卒業生が経営する、排泄物を固める薬剤やポータブルトイレなどを開発・製造している企業です。製品は被災地だけでなく、観光地などさまざまな現場で使える可能性を秘めているものの、同社はどういう場所でどのように生かせるかを考えあぐねているところでした。 「兄が建設現場で仕事をしていて、仮設トイレの臭いがひどいという話を聞いていました。そうした現場で働く人たちの悩みをこの薬剤で解決できないかと思いました」(前田さん) そこで、まずは現場の調査から始めることにし、建設現場の声を集めるために、建設会社などに協力を依頼しました。しかし、学生の依頼に快く協力してくれる企業は多くないため難航しました。実際に薬剤が建設現場に転用できるかの実証実験を行うにも、自分たちで協力企業を見つけなくてはなりませんでした。 「アポ取りの電話から、協力を取り付けるまでは本当に大変でした。1000件以上は電話したと思います。だからこそ、私たちの話に耳を傾けてくださった人や、現場で困っていることを話してくださった人への感謝を込めて、皆さんが抱えている課題を解決したいという思いが強まっていきました。このプロセスが私たちを育み、課題に最後まで取り組めた原動力になりました」(前田さん) こうした努力のかいあって、ある花火大会に設置される20の仮設トイレのうち、5つを実証実験で使えることになりました。この薬剤は固化することで悪臭を抑えることができますが、仮設トイレにたまった排泄物をバキュームカーで吸引するときに、固化していると詰まりの原因になるという問題がありました。逆に薬剤の量を減らすと、詰まらなくなるものの、消臭効果も弱まります。そこで、5つのトイレごとに薬剤の量(濃度)を変えて実験することにしました。 「くみ取りをしているところや、建設現場に何度も足を運びました。真夏だと特に臭いもきつくなるため、時期や時間が変わると臭いがどう変わるかなども調べました」(前田さん) 花火大会当日に現場で集めたデータをもとに、ビジネスプランを練り上げていくときに強い味方となったのが、安田ゼミのOB、OGたちでした。安田ゼミは縦のつながりが強く、春合宿や夏合宿に行われるプレゼンテーションの場に卒業生が来て、後輩にアドバイスしています。また、ゼミにはメンター制度があり、4年生がメンターとしてさまざまな場面で後輩をサポートしています。「チーム耀」が大会で最優秀賞を取れたのも、上級生や卒業生の支えが大きな力となったといえます。 4年生になった前田さんは、安田ゼミでの経験が自分を大きく成長させてくれたと感じています。 「自分たちが何のために将来の意思決定をしていくのか、人生の目的とは何なのかを強く考えさせられました。すでに社会に出ている先輩たちの働く姿を間近に見ることができたのも、大きな学びでした。就職活動では、自分がどれだけ裁量を持つことができて、社会に影響を及ぼせるような環境で働けるか、ということを重要視したいです」 前田さんは今年度、安田ゼミで自ら名乗り出て、メンター長に就任しました。安田教授や先輩から学んだことを下級生に伝え、恩返ししたいという気持ちがあったからです。 「ここまで本気で、よりよい社会を築くための人材育成に取り組むゼミはなかなかないと思うので、自分も貢献できればと思っています。大学時代に成長したい、何かを成し遂げたいという高いモチベーションのある人にとって安田ゼミは最適な環境だし、すごく楽しい場所でもあるのです」
朝日新聞Thinkキャンパス