人の命奪う死刑制度、国際社会からは批判の声 決して一様ではない被害者遺族たちの思い
日本は「北朝鮮と同じグループ」 駐日大使の苦言
また、2024年8月29日に懇話会で意見を述べたジュリア・ロングボトム駐日英国大使は「英国政府はいかなる場合でも死刑には反対の立場です」と明言し、その理由として3点を挙げた。 ①死刑が人間の尊厳を奪うこと ②死刑が犯罪を抑止する決定的な証拠がない ③冤罪の場合は取り返しのつかない事態になる ロングボトム氏は、日英は人権など共通の価値観を尊重しているとしつつ、日本が死刑制度を維持していることが世界の中で目立っていると指摘する。「残念なことに死刑存置国という観点から見ると、日本は中国、北朝鮮、シリア、イランなどの国と同じグループに入ってしまいます」 ロングボトム氏は、死刑制度があることにより「日本が掲げる人権外交の理念と行動の間に、どうしても隙間があるように感じてしまいます」と、苦言を呈した。
「価値観のダブルスタンダート」への懸念
こうした国際社会からの視線に、自民党の衆院議員で外務副大臣も務めた鈴木貴子氏(38)は、日本に死刑制度があることよる外交上の懸念を抱く。日本が覇権国家を批判しても、死刑があるため「同盟国からは、価値観のダブルスタンダードに映る」と指摘する。 国際人権団体アムネスティの2023年の統計では、死刑執行が10年以上ない国なども含めると、死刑を廃止したのは144カ国で、日本は少数派だ。 「日本は同盟国に対して『価値観を共有するパートナー』と強調するけれど、死刑については全く共有できていないことが多い」。鈴木氏は、超党派の「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」で事務局次長を務め、死刑に批判的な立場を取る。 「死刑は外交や安全保障に関わる重要な国政のテーマだ」と、議論の必要性を強調する。だが、国会での動きは低調なのが実情だ。
【取材後記】
海外の人たちと話をする中で、死刑制度について話題が及ぶと、日本に死刑制度があり絞首刑が続いていることに驚かれることが少なくない。「安全な国」との印象がある日本で死刑が行われていることに加え、絞首刑は残虐であるとのイメージが強いからだ。 日本のほか、米国の刑務所での取材経験が豊富な映画監督の坂上香さん(59)は「米国人にとって絞首は、黒人へのリンチや公開処刑を想起させ、死刑賛成派でも抵抗を覚える」と言う。「150年以上も絞首刑のままで、執行の詳細が伏せられていることに、なぜ社会的に議論されないのかと不思議がられる」とも語る。 日本で死刑を語るとき、犯行の残忍さと厳罰を求める被害者遺族感情に焦点が当たりがちだ。磯谷さんの怒りや悲しみは想像に絶すると思うが、片山さんのような加害者の更生を求める考え方もある。どちらが正しいという答えはない。国際社会の視点や被害者遺族にどういった支援の手を社会が差し伸べるかを考えながら、議論を進めていくことが必要と痛感した。 ※この記事は、共同通信と Yahoo!ニュースによる共同連携企画です。