政府の物価高対策、エネルギー補助金の問題点
脱炭素政策に逆行
第3の問題は、価格メカニズムを通じた効率的な資源配分を歪めてしまうことだ。我々は、様々な価格という情報を踏まえて、効用が最大となるような各財・サービスの消費の組み合わせを常に選択している。またそれを踏まえて、各財・サービスの生産も調整されていき、経済全体として最適な資源配分に基づく生産活動が行われる。 しかし、政府の補助金はこうしたプロセスを歪める。それは、経済の非効率を高めてしまうのである。 例えば、生成AIの広がりによる電力需要の高まりは、将来にわたって電力価格を押し上げる可能性があるが、我々は、生成AIを利用する便利な生活を望むか、それともその利用を一定程度抑えることで、生活の負担となる電気料金の大幅上昇を回避するかという大きな選択をすることが求められる。電気料金への補助金は、そうした重要な国民の選択、判断を歪めてしまう恐れもあるだろう。 第4の問題は、第3の問題とも関わるが、ガソリン補助金によってガソリン価格の上昇を抑えることは、消費者にEV車への乗り換えなどを通じてガソリン消費を節約するといったインセンティブを削いでしまい、脱炭素政策に逆行してしまう。 発電が依然として化石燃料に大きく依存するもとでは、電気料金の補助金によって節電のインセンティブが削がれてしまうことも、脱炭素政策に逆行してしまう。
エネルギー補助金は低所得者支援に衣替えを
このように、政府の物価高対策、エネルギー補助金制度は多くの問題を抱えている。それを安易に繰り返すことは慎重であるべきだ。一方、エネルギー補助金制度の対象を低所得者層に限り、社会政策の性格を強めることで、これらの問題をかなりの程度緩和することができるはずだ。そうした制度設計の大きな見直しが求められる。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英