時代を変えたゲームチェンジャー、公道最強を誇った初代ヤマハYZF-R1
スポーツバイクの新しい扉を開いたYZF-R1
改めて初代YZF-R1の各部について詳しく見ていくことにしよう。エンジンは完全新設計となるDOHC5バルブ998ccのインラインフォーで、ミッションのメインシャフトを上に持ち上げ、その下にカウンターシャフトを配置するという三軸のレイアウトを採用していた。このレイアウトによってエンジン長はサンダーエースよりも約80mm短縮され、またシリンダーとクランクケースを一体化した構造を採用することで、エンジン単体での重量はサンダーエースよりも10kg近く軽量に仕上げられた。ミッションはYZF1000R サンダーエースが5速だったのに対して、6速化されている。1速がサンダーエースの2.571に対して2.600、5速が1.035に対して1.200で、サンダーエースには無い6速は1.115となっている。つまりYZF-R1は完全なクロスレシオ設定で、トップギアとなる6速もギア比から見ていわゆるクルージングギアとは捉えにくい。このスポーツ走行に特化したようなエンジンだが、エキゾーストシステムにはヤマハが誇る排気デバイス「EXUP」が装備され、このハイチューンエンジンを誰にでも扱えるように見事に調教されていた。
卓越した運動性能を生み出すシャーシ
YZF-R1のメインフレームは、ヤマハ製スポーツバイクの象徴とも言えるデルタボックスタイプの「デルタボックスII」だ。YZF750SPの全長が2,070mm、ホイールベースが1,420mmだったのに対して、YZF-R1は全長が2,035mm、ホイールベースが1,395mmである。つまりYZF-R1は当時スーパーバイクを戦っていたYZF750SPよりもコンパクトな車体に、レーサー並の150PSのエンジンを搭載していたのである。ホイールベースの差は25mmだが、注目すべきはYZF-R1のスイングアームの長さだ。YZF-R1のスイングアーム長は582mmで、ホイールベースの約42%である。これにはミッションの二階建て構造によって短縮された、エンジン長が大きく影響している。エンジン長を短くすることでスイングアームピボットの位置を前進させ、ホイールベースを短縮しつつスイングアーム長を伸ばすことに成功しているのだ。このスイングアームはYZF-R1の運動性能のキモとも言える部分で、鋭いハンドリングと扱いやすさを両立させるための重要なファクターになっている。フロントフォークは41mm径の倒立タイプで、135mmという長いストロークを持つ。当時のインプレッションを読み返してみると、YZF-R1の足回りはとにかく「よく動く」という表現が使われている。このよく動く足回りは、現在のサーキット志向のスーパースポーツとは異なり、公道の荒れた路面でも抜群のコントロール性を発揮する高い路面追従性を生み出している。