ハナレグミ「いろんなものを手放して、脱いでいって、それでも残る何かを大切にしたい。」
日々の暮らしを鮮やかにする風通しのよいポジティブさ。
ハナレグミこと永積崇(ながづみたかし)さんは、写真を撮るのが好きだ。カメラ片手に街を歩き、何気ない日常の光景を切り取っていく。それは、ハナレグミの曲作りにも通じるところがある。 「僕は、シーンを曲にして歌うことが多くて。なんでそうなのかなって思うと、それは聴いてる人が主人公なんだという感覚が、表現の核にあるからなのかもしれないです。その景色を見て美しいと思ったり、遠くの誰かを思い出したり、はたまた誰かを好きだったことに気づいたり。音楽の持っている“音色”と、いくつかのシーンがリンクすることで、聴く人が、今、一番必要としている何かを想起してくれる。その関係性こそが、音楽が一番輝ける瞬間なんじゃないかって思うんです。自分としては、歌い手の顔とかパーソナリティが、少し滲んでいてほしいっていうか。そもそも“ハナレグミ”って名前も、そこから来てるから」
約3年半ぶりとなるハナレグミのアルバム『GOOD DAY』は、聴き手の日常にすっと溶け込むシンプルさと、日々の暮らしのBGMとなりえる普遍性や耐久性を備えた一枚だ。 作品に通底しているのは、風通しのいいポジティブな感覚。人気シンガーソングライターのiriをフィーチャーした「雨上がりのGood Day」などは、カラフルなサウンドも相まって、聴いているだけで目の前の景色が鮮やかに色めいてくる、爽快な一曲に仕上がっている。 「iriさんとやりとりしながら歌詞を作っていったんですが、スケッチみたいな歌詞にしようって話して。朝起きてカーテンを開けたら晴れていて、なんか今日はいい日だなって感じる。そういう気持ちの瞬発力というか、考えるよりも体が先に動いちゃうような感覚を大事にしたかった。 コロナ禍では閉じこもって考え込む時間が長く続いたし、音楽をやること自体にも逡巡してしまう時があって。そういう状況の中で、自分の中の大事なものは根こそぎ奪われないようにしようって本能的に感じたり、体の内側から発せられるサインに正直になろうって思ったことが、今回のアルバムの明るさにつながったのかもしれない」 永積さんは、11月に50歳の誕生日を迎える。年齢もキャリアも重ねていくと、抱え込むものが多くなっていきそうだが、今の彼は、以前にも増して自由で軽やかな印象だ。 「なんかね、今の気分としては、いろんなものを手放して、脱いでいって、それでも残る何かを大切にしたい。本当に自分に備わってるものだけ持ってればそれでいい。そういう状態になりてぇなって(笑)。そう思ってます」