<映画評>『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』
サイモン氏が1960年代後半の社会を描いた2008年公開のドキュメンタリー映画『Generation 68』では、音や光の演出を多用し、見る者を飽きさせない刺激的な作品だった。「68年は、非常にエネルギッシュで音もあってカラフルで、複雑なものが流行っていた。ロックンロール、ドラッグ、ミニスカートなんかね」。 今作品はカラフルでノイジーな『Generation 68』とは対照的なのだが、はじめから作風を計画することはなかった。「何かを創造するときには、オープンな頭で考えなさい」という父の教えだ。「密に詰めすぎてはいけない。計画に従うことばかり考えてはいけない。ただ、オープンでいるというのは『準備をしない』という意味ではない。題材からおのずと出てくる作風というのがあって、それに従うのが良い」とサイモン氏は言う。これもピーター・ブルック流の創造のレシピなのだろう。 ピーター・ブルックという人物をどれだけの人が知っているのか? その人の名を知っているかどうかは重要でない。その人が何を語っているかを感じることに価値がある。そういう意味で、演劇に関心のない人でも何かしらの示唆が得られるだろう。