考察『錦糸町パラダイス』5話「責任を果たすことだけが正義じゃない」
責任とはいったいなんなのか?重い命題を30分で探ったドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東金曜深夜24時12分~)5話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
それぞれが背負う、それぞれの責任
ほぼ1話に1人ペースで社員が辞めていき、これまでいいところなしだった映像制作会社「リアルフィクション」社長(今井隆文)にスポットライトが当たる回となった『錦糸町パラダイス』5話。 次々と社員が辞めていく中でたった一人残り、「錦糸町フェス」のドキュメンタリー撮影に走り回っていた安住(松岡広大)。しかしそんな安住も限界を迎えてしまい、なみえ(濱田マリ)のロケの真っ最中に飛んで(無断で辞めて)しまう。結果、リアルフィクションの社員はとうとうゼロに。 5話のサブタイトルは「責任とは?」。なみえ不在の地元FM番組「星降る錦糸町」でかおる(光石研)が語る責任論。途中で責任を放棄してしまった安住。そんな彼が番組へ送ったメッセージには、社長が抱える責任について綴られていた。 共働きで子どもを育てていた社長が、仕事も家庭もうまくやろうと頑張った結果、キャパオーバーしてしまったこと。家族に対する責任を果たせなかった後悔から、まわりにも過剰に責任を求めようとした結果、パワハラ体質になってしまっていったこと。安住はメールで「でも僕は、責任を果たすことだけが正義じゃないと思います」と続ける。 一見、惰性でこの街に居続けているように見える人々にも、それぞれ負っている責任がある。そんなことが垣間見える5話だった。
それぞれの気持ちに答えが出ないリアルさ
安住のメールを読み上げる放送を聞いていた裕ちゃん(柄本時生)は、 「無理して人に責任なんてとってもらいたくないよ」 とこぼす。その言葉に大きなショックを受けたのは大助(賀来賢人)だ。彼が家業を継いで掃除業者になったのは、自分の行動がきっかけでケガをした裕ちゃんに対する贖罪の気持ちからだった。大助なりにとった「責任」だ。けれど、それが裕ちゃんにとってはむしろ負担になっていたのかもしれないと知ってしまった。そういえば、かおるの責任論を聞きながら「責任によって社会は成り立っている」「責任をもたないとダメだろ?」と言っていた大助の横で、裕ちゃんは無言で缶コーヒーを飲んでいた。 さらに大助は、交際相手である心音(さとうほなみ)からも、 「(掃除屋を継ぐ理由ができて)本当は安心したんじゃない? バスケ、続けなくてよくなったから」 と言われてしまう。自分を犠牲にして友人のためにとった行動。その裏には自分がバスケから逃げたいという気持ちがあったのではという痛い指摘に、無言で席を立ってしまう大助。 そうして、5話は終わっていく。 社長のことも、大助のことも、きれいな答えが出ないところがどこまでもリアルだ。 5話でいえば、定期的に大助たちに清掃依頼をしていた東海林家が依頼をストップさせてしまった描写もあった。セクハラ告発、それによる左遷で東海林(忍成修吾)の経済状況が悪くなったことをほんのり感じさせつつ、決定的なところは見せない。私たちは、自分を取り巻くいろんな人たちの思いや去就を部分的に知ることしかできない。すべてを知ることは、家族であっても恋人であっても難しい。ましてや「街の人」の全貌など見えるべくもない。その距離感が、このドラマには表現されている。