池上彰が映画で世界を解説! 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』──破天荒な人物が、なぜ二度もアメリカ大統領になれたのか?
描かれた時代背景や、舞台となる場所の特性、映画に込められたテーマや視点など、知っていると面白さも知識も倍増する、ジャーナリスト池上彰さんならではの映画の見方で映画をご紹介いただきます。(ぴあアプリ「池上彰の 映画で世界がわかる!」より転載) 【全ての画像】『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』(全7枚)
次期来年のアメリカ大統領に就任が決まったドナルド・トランプ前大統領。大統領を一期で退いた後、大統領に再選されるというのは、アメリカの歴史で132年ぶりのこと。やることなすこと破天荒な人物が、なぜ二度もアメリカ大統領になれたのか。まさに題名通り「ドナルド・トランプの創り方」が描かれます。 題名の「アプレンティス」とは、「見習い」という意味。トランプが全米に名前を知られるようになったテレビ番組のタイトルですが、ここには二重の意味があります。トランプもかつては「見習い」。20代に辣腕弁護士として知られた(悪徳弁護士とも批判された)ロイ・コーンと知り合って、見習いビジネスマンとして成功していく姿を描いたのです。 そもそものテレビ番組は、不動産王として知られたトランプのところに見習いの若者たちが集められ、さまざまな課題を与えられるという設定です。その課題に応えられなかった若者は、毎週ひとりずつトランプから「You're Fired! 」(お前はクビだ!)と宣告されるというリアリティ番組でした。 若きトランプは、父親が創業した不動産会社で副社長を務めていましたが、仕事は低所得者向けのアパートを建設し、家賃が払えない入居者書から容赦なく家賃を徴収するというもの。 ところが黒人の入居を拒んだとして政府から公正住宅法違反で訴えられます。困ったトランプはロイ・コーンに泣きつきます。トランプに見どころがあると思ったのでしょう。ロイ・コーンは、トランプにビジネスマンとして成功する秘訣を教授します。それが「勝利の3原則」。 ひとつ目は「攻撃、攻撃、攻撃」。ライバルにしろ行政にしろ、自らの障害となるものに対しては、あらゆる手段を使ってでも攻撃を仕掛けて勝利しろ」というものでした。 ふたつ目は、「決して非を認めるな」。自分の責任を認めてはいけない。全否定しろというもの。 そして3つ目は「決して負けを認めるな」。 どうですか。トランプがやってきたこと、そのものではありませんか。民主党のジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領を徹底的に攻撃して大統領選挙に勝利しました。 差別発言をして批判を受けると、その発言を報じたメディアを「フェイク・ニュース」と呼んで自分の非を認めません。 極めつけは2020年の大統領選挙。選挙の敗北を認めようとしませんでした。 こうしたトランプの態度は、まさにロイ・コーンから伝授されたものではありませんか。 しかし、やがてトランプはロイ・コーンを見捨てます。辣腕(悪徳)弁護士は、自らを上回る怪物を創り上げてしまったのです。 アメリカではこの映画は大統領選挙直前の10月に公開されましたが、トランプの勝利には影響しませんでした。日本では来年1月17日に公開されます(11月22日(金)~28日(木)の1週間限定の先行上映あり)。選挙の投票日の前に見たかったというのが私の正直な気持ちです。 ちなみに映画で描かれる衝撃的な出来事は、すべて多数の関係者の証言で裏付けられていることを付言しておきます。 彼は伝記作家への語り下ろしで、「すべてはディール(取引)だ」と断言しています。「取引は芸術だ」とも。 来年1月から、日本は「すべては取引だ」と公言する大統領と付き合わなければならないのです。 『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』 https://www.trump-movie.jp/ 11月22日(金)~28日(木)の1週間限定 TOHOシネマズ日比谷、kino cinéma新宿で 緊急先行上映 2025年1月17日(金)公開 (C)2024「APPRENTICE「PRODUCTIONS「ONTARIO「INC.「/「PROFILE「PRODUCTIONS「2「APS「/「TAILORED「FILMS「LTD.「All「Rights「Reserved.