Vision Proを買って(だいたい)1週間、4つの疑問に答える。例えるなら初鰹のような存在(西田宗千佳)
Vision Proの購入から一週間ちょっとが経過した。その間、ほぼ毎日数時間は使っている。気に入っているかといえば「もちろん最高に気に入っている」のだが、それは別に、「だからみんなすぐに買いなさい」という話でもないし、「このまますぐ世界を席巻します」という話でもない。 Vision Proのビデオパススルー。キーボードもスマホもしっかり見える というわけで、買って5日でわかってきたことから、4つの「よくある疑問」に答えて行きたいと思う。
その1:便利ですか?
答え:便利。機能を分解していけば、似た体験は他のHMDでもできる。ただし、実際の体験としてはレベルが違う。 Vision Proでできることは、極論すれば2つに集約できる。「空間にアプリを配置していく」ことと、「見えている世界を別のものに書き換える」ことだ。 それを「ただ大きなディスプレイを空中に置くだけ」というのは簡単なのだが、複数を配置するとなると、まあだいぶ話は変わってくる。 本質的にはそれだけ。だが、安全に使うには周囲が自然に見えていないといけないし、ウインドウまでの距離感も自然である必要がある。単に表示しただけとの間では、やはり快適さに大きな違いを感じる。 別の言い方をすれば、物理的なディスプレイの場合には配置できる場所・サイズの制約が大きく、それを解決するための1つの手法が「空間コンピューティング」ということになるわけだ。 また、映画などの体験は非常にクオリティが高い。HMDであるが故に視野の狭さは感じるが、解像感・音質ともに良好で、これを飛行機の中でも家でも体験できるのは素晴らしい。これもまた、物理的な世界に存在する制約を取り外した例と言えるだろう。 意外と語られづらいが、周囲を別の環境にしてしまう「Environments」のクオリティも素晴らしい。山の上や月面に一人で立つ、という感触は、なかなか他では得られない。 しかも、普通に、手元のキーボードやスマホを見ながら作業できる。現実そのままとはいえないが、周囲がちゃんと見えていることは重要なことだ。 実のところ、ビデオパススルーで見える映像は視力が補正されたことを前提に見せているので、意外なほど見えやすい。解像感も発色も肉眼からは外れているのだが、老眼などの影響を受けづらい状況にはなる。なのでビデオパススルーは「視力をざっくりと補正する」役割としても価値を持つのだ。 補足しておくが、Vision Proにも難点は山ほどある。 暗い場所ではパススルー品質が落ちやすく、手や周囲の認識精度も劇的に下がる。首を大きく振った時、パススルーの書き換えが遅れるのは気になる。ウインドウの整列を自動化する機能も欲しくなる。 そもそも、ホーム画面でアプリの並べ替えすらできず、素早く操作しようとするとイラつく。確かに手の認識精度はとても高いが、遠いところに置いたウインドウの小さなボタンを正確に操作できるほどではないので、操作時に「手元へ引き寄せる」必要が出ることも多い。 アメリカ版なので日本語入力が標準ではできないとか、Magic Trackpadは使えるのにマウスがなぜか使えないとか、突っ込み始めればキリがない。 だが、Siriを併用すると使い勝手は一気に上がる。MacでもiPhoneでも、ここまでSiriを便利だと感じたことはないくらいだ。文字が見づらければ近寄るか、近くまで持って来ればいいというのは、ある意味で直感的かつわかりやすい。 今のOSは「1.0」だ。発売直後に「1.0.2」になり、デベロッパーには「1.1 beta」の配布が始まった。他のOSと同じ流れなら、次のWWDCでは「visionOS」が発表されるのだろう。 不満点はそうやって一部が解消されていくことになるはずだ。