天使の分け前(11月26日)
樽材から成分が溶け出し、豊かな香りと味わいを生み出す。ウイスキーは樽の中で長い年月をかけて熟成する間に、水分とアルコールがゆっくり蒸発し、容量が少なくなる▼減る量は、保管場所の温度や湿度に左右される。高温で湿気のない場所だと、数十年で半分になる例もあるという。理由が分かっていなかった時代、海の向こうの職人は天使がこっそり飲んでいると想像した。口を付けた残りを与えているからこそおいしい酒ができると考え、「天使の分け前」と呼ぶようになった▼国産ウイスキーの人気が年々高まっている。「ハイボール」の浸透で、年代を問わず一層身近になった。世界的なコンテストで幾度も最高賞を受賞した実績も追い風になっている。新型コロナ禍後、お土産で購入する外国人観光客も増えている。今や1本100万円以上の値打ち物まである。県内各地でも「地ウイスキー」造りが進む▼「日本のウイスキーの父」と呼ばれた竹鶴政孝らの手で、国内初の蒸留所が大阪に完成し今月で100年。去りゆく紅葉を惜しみつつ、輝く琥珀[こはく]を味わいたい。1世紀分の天使のおこぼれは、えも言われぬ酔いを醸し出してくれるだろう。<2024・11・26>