「結婚すると、そのあとも幸せでいられると思っている人が多いが」…若い学生たちには「イヤな顔」をされる「そのことばの続き」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
恋愛から結婚の現実へ
成人期前期には多くの人が配偶者を選び、結婚という形で家庭を築きます。もちろん、独身のまま人生を送る人もいますし、結婚しても離婚を経てひとりにもどる人もいます。どの人生がよいかはその人次第です。 結婚の前には多くの場合、恋愛の期間があります。これは悩ましくも楽しい時間で、結婚はその幸福の高まりの中で行われます。 大学で講義をするとき、私はよく、「結婚すると、そのあとも幸せでいられると思っている人が多いが、実際は結婚したときが幸福のピークで、あとは下がる一方だよ」と言いました。すると、一様にイヤな顔をされます。若い学生たちはまだまだ結婚に夢を描いていたのでしょう。 実際、結婚すると、すぐに生活という現実が迫ってきます。生活がはじまると、恋愛中にはわからなかった相手の欠点や短所も見え、不満や失望が増大します。だらしないとか、稼ぎが少ないとか、料理が下手、片付けができない、家事をしない、幼稚、短気、無精、傲慢、身勝手、わがまま、思いやりがない、口うるさい、愚痴が多い、不親切、無理解、横暴、しつこい、執念深い等々。 学生に結婚生活をうまく続ける秘訣を聞かれたときには、こう答えます。 「一に努力、二に辛抱、三にあきらめだね。相手の気に入るように努力し、相手の気に入らないところは辛抱し、相手を変えることをあきらめることだよ」 すると「先生は不幸な結婚をしているんですね」と同情されたりします。そう思うのは学生の浅はかさで、幸福には相応の代償が必要ということを理解していないからの感想です。 四十年を超える結婚生活で、私も学んだことがあります。 相手を変えようと思っても無理だということ。これまで何度も喧嘩、言い争い、懇願や苦情を繰り返しましたが、いくら頑張っても相手が自分の望むように変わることはありません。それなら不愉快な思いをするだけ無駄なので、不満を口にしなくなりました。すると平和が訪れました。 以前、胃薬のCMで、女優の木南晴夏さんが亭主役の濱田岳さんに、「期待しなくなったら、楽になったの」と言うのがありましたが、これも平和な結婚の秘訣でしょう。夫婦不和や離婚は、相手に期待しすぎることが大きな原因です。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)