“名脇役”平岩紙が発揮する適応力 『ブルーモーメント』『虎に翼』にみる“演技の妙味”
『ブルーモーメント』の第6話は“変化”が特に身に染みて感じられる回で、あっという間の1時間だった。 【写真】『虎に翼』で梅子役を演じた平岩紙 第1話では、初対面の雲田彩(出口夏希)に対し「お前」と呼んでいたり、人々を救うために厳しい言葉を投げかけることもあった晴原柑九朗(山下智久)。他人を寄せ付けない雰囲気を放つ場面も多い晴原だが、祖母に手紙を渡してほしいと言う家族の頼みを真摯に引き受けたり、上野香澄(平岩紙)の息子・海斗(石塚陸翔)に対し母親の仕事の重要さを説いたりと、晴原の思いやりが感じられるカットが数多く見られた。 上野香澄を演じる平岩紙の演技が素晴らしく、第6話では晴原や雲田が頼りにする上司としての顔だけでなく、息子に向き合う“母親”としての姿も見ることができた。 作品の世界観にうまく溶け込み、その存在感を発揮する平岩の演技。“名脇役”として視聴者を物語に没入させる芝居は『ブルーモーメント』以外の作品でも発揮されている。 現在放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』では、明律大学女子部法科の学生であり、主人公・寅子(伊藤沙莉)の同級生・梅子を演じた平岩。入学式では、新入生代表の挨拶を英語で行った桜川涼子(桜井ユキ)に対し「YES」と返答していたのも印象的だ。昼休みには寅子たちにおにぎりを振る舞い、甘味処ではご馳走したりとお茶目ながらも最年長らしく振る舞う梅子だが、自身の夫・徹男(飯田基祐)の前では全く別の顔を見せた。その姿は当時の男尊女卑な空気感に疑問を覚え、強気な姿勢の寅子とは対照的。現実を受け入れ、やや諦めかけているような雰囲気さえ感じられた。 しかし、大学入学の理由を明かすシーンでは梅子の「子どもの親権が欲しい」という願いや母親としての強い意志にグッときた視聴者も多いはず。一つのカットでキャラクターの魅力を引き出した、平岩の演技が光る一幕だった。
『これは経費で落ちません!』などでも“絶妙な存在感”を放った平岩紙
2024年1月3日に日本テレビ系で放送されたスペシャルドラマ『侵入者たちの晩餐』でも、平岩は脇役でありながら物語には欠かせない役柄を演じた。主人公・田中亜希子(菊地凛子)の同僚で、“犯罪”の立案者でもある小川恵(平岩紙)はお茶目……というわけではないが、人の懐に入るのが上手く、また同時に憎めない人物だった。 犯罪を行う人に対して、普通なら嫌悪感を感じてしまうところ、豪邸に侵入した際に置いてあった空気清浄機が同じだったことを話すシーンや、賞味期限間近の食材で料理を作ってしまう場面では恵の少し抜けているような一面が描写されており、多くの視聴者を笑いの渦へ巻き込んだ。恵が居なければ確実に『侵入者たちの晩餐』という物語は始まっていなかったことを考えると、まさに彼女は本作のキーパーソン的な存在でもある。犯罪を行っているとは思えない数々の行動や作品のコミカルさを成り立たせていたのは、平岩の“絶妙な存在感”が一役買っていたと言える。 2019年に放送された『これは経費で落ちません!』(NHK総合)では、先ほどの2作とは打って変わった役を演じた。総務部で働く平松由香利は主人公・森若沙名子(多部未華子)にどこか似たオーラを感じる女性。同僚と群れることなく、淡々と仕事に励む姿はまさに“令和を生きる女”だ。夏季休暇中の過ごし方について聞かれた際も「有給取得は社員の権利なので休んでいただけ」と答え、上司を唖然とさせていた。 コーヒーメーカーで社員たちにコーヒーを入れて回る、いわば“お茶汲み文化”を大切にする横山(伊藤麻実子)と対立し、自分の好きな時に淹れれば良いとコーヒーサーバーの稟議書を出した平松。一見すると必要以上にコミュニケーションを取りたがらない人物……という印象だが、第4話終盤で森若にコーヒーサーバーを設置したい理由を問われた時の返答は、彼女らしい周りへの心遣いが垣間見えた。 主人公ではないが、子持ちの母親やバツイチなどさまざまな役柄をこなし、唯一無二の存在感を放つ平岩。『ブルーモーメント』ではまだまだ“名脇役”としての平岩の好演が観られそうだ。
渡辺美咲