「映画よ、もっと気候変動を語れ」ディカプリオ主演作や『マッドマックス』の功績とは?
人気映画250作品のうち気候変動を描いたのはわずか9.6%。現実世界が架空のディストピアに近づく今日、映画による世論喚起が不可欠だ
『マッドマックス』シリーズの最新作『マッドマックス:フュリオサ』で、ジョージ・ミラー監督は、壊滅的な環境破壊と激しい気候変動によって砂漠化したディストピアの世界に私たちを引き戻した。 【動画】「もう引退しては」「恥ずかしい」の声も...マドンナ、ツアーで見せたダンスに「まるで老人」 ミラーがシリーズ第1作で、砂漠化の進んだ世界で水とガソリンを追い求めて疾走するギャングを描いたのは1979年のこと。 あれからおよそ45年、ニューヨーク・タイムズ紙の映画評論家マノーラ・ダージスが指摘したように、「ミラーの描く焼け焦げた世界と現実世界の距離はだいぶ縮まった」。 実際、最も主要な温室効果ガスである二酸化炭素の大気中濃度は、79年には340ppmを少し下回る程度だったが、現在は420ppmを突破している。それに伴い、世界の平均気温も上昇してきた。 2023年は、観測史上最も暑い1年だった。世界中で激しい嵐や熱波、山火事のニュースが相次いだ。にもかかわらず、映画の世界では気候変動を目の当たりにする機会は少ない。 この点は問題だと、気候変動活動家のアナ・ジェーン・ジョイナーは本誌に語る。彼女が創設した団体「グッドエネルギー」は、ハリウッド映画における気候変動問題の存在感を高めることを目指す活動に取り組んでいる。 「映画は、今日の世界で最も強力にストーリーを伝えることのできる手段だ」と、ジョイナーは言う。「映画に気候変動を登場させることの重要性は本当に大きい」
世論喚起のカギを握る
グッドエネルギーは、米コルビー大学のバック気候環境研究所と協力して、13~22年に公開された250作の人気映画を対象に、作品内で気候変動の現実が描かれているかどうかを調べた。 具体的には、ストーリーで描かれる世界に気候変動が存在しているか、そして登場人物が気候変動を認識しているかを点検した。 すると、この「気候現実テスト」に合格した作品は全体のわずか9.6%にすぎなかったという。 動画配信サービスが台頭してほかの娯楽との競争が激化するなか、映画産業は近年、苦境に立たされている。そうした状況で、硬い社会問題を取り上げる作品を作る意欲が落ち込んでいるのかもしれない。 この4月には、気候変動をはじめとする社会性の高い映画を製作してきたパーティシパント・メディアが廃業を決めた。 しかし、気候変動対策を推進するためには、映画を通じて世論の関心を高めることが不可欠だと、ジョイナーは指摘する。「歴史を振り返っても、ストーリーテラーとアーティストが参加せずに成功した社会運動はない」 ジョイナーによれば、気候変動が登場する映画にはさまざまなタイプがある。 比較的多いのは、スーパーヒーローが活躍する大規模予算のアクション映画だ。ディストピア的未来や、ヒーローが阻止しようとする陰謀の一部として気候変動が描かれる。 『アクアマン』『ファンタスティック・フォー』『ジャスティス・リーグ』『アメイジング・スパイダーマン2』などがそうだ。 一方、気候変動が作品のプロットを大きく左右することこそないが、登場人物の会話に出てくる作品もある。 「このタイプの作品も心理面での重要性が大きい。気候変動を話題にするのは当たり前で、気候変動を恐れる感情を抱いてもいいのだと感じてもらえる」と、ジョイナーは言う。19年のロマンチックコメディー『マリッジ・ストーリー』はこのタイプだ。 さらに、「気候の世界」をつくり上げる映画もある。ジョイナーによれば、「ストーリー全体に気候変動問題が織り込まれていて、登場人物の人生とストーリー展開にも影響を及ぼす」タイプである。22年の映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』はその一例だ。