「命の輝きは長さによるものではない」小児がんと戦う子供の"伴走者”「CLS」の知られざる重要性
CLSの仕事内容は、プリパレーションのほかに、セラピューティックプレイ(治癒的遊びの提供)、処置・検査中の精神的サポート、家族への心理社会的支援、グリーフケア(わが子、きょうだいとのお別れの時のサポート)と多岐にわたる。 「アメリカの古い文献には、抑制のために白いシーツでぐるぐる巻かれる経験を繰り返した男の子が、そのトラウマにより、退院後も白いシーツで眠れなくなったというエピソードが紹介されています。 日本の病院でも、子供たちの採血をするときにタオルなどで巻いて抑制するようなことがあります。病院で何度もそういった経験をしてきた子が、家に帰ってから、フラッシュバックしてしまう可能性もあるかもしれません。医療が、子供の心に負担をかけることがあるという認識を、医療側も持つことが求められます」 現在、小児がんの罹患者は年間約2000人~3000人と言われている。昔と違い、小児がんは約8割が治る病気と言われているが、厳しい現実が待ち受けている子供もいるのだ。 「そうはいっても医療の中で抑制が必要な場面はありますし、検査や処置は絶対にしなければいけません。でもそのときに、医療側が『お母さんと手をつないでいよう』とか、『好きな音楽をかけておこう』とか、そういった配慮ができるだけで、その子にとって少し優しい医療になると思っています。そういった視点を持って、医療側も治療に関わることが非常に重要になります」 佐々木氏が、CLSに出会ったのは、どのようなきっかけだったのだろうか。 「大学のときに、発達心理学の勉強をしており、将来は子供に関する仕事に就きたいと思っていたので、(子供に関わる)様々なアルバイトやボランティアをしていました。 その一つとして小児病棟のプレイルームで子供と遊ぶボランティアを経験し、そこで、日本のCLSの第一人者である藤井あけみさんと出会ったのです。藤井さんは、治療が大変な子供たちとともに、病院で楽しく過ごせる空間を作り出していらっしゃいました。そこで、医療に向き合う子供たちとの楽しい時間を大事にできる仕事があるんだというのを知ったのです」 日本では、CLSの資格取得に必要なカリキュラムを履修できる大学はなく、佐々木氏は、CLSの資格を取得するためアメリカに渡った。 「留学をしたのは20年近く前になりますが、1年目は保育園で実習、2年目に病院で実習インターンというプログラムでした。1年目の保育園ではゲイやレズビアンのカップルの子供がいたり、養子と実子が兄弟の家庭もありました。 親が必要な子がいるのであれば、自分自身が子供を産む選択より、養子を迎える選択をしている家庭も一般的でした。病気や障害がある子も同じクラスで学び、そういった子を特別視することなく、当たり前のように感じている。そういう環境に身を置けたのは大変良かったです」 大学卒業後、CLSのスーパーバイザーの元でのインターンが必須とされ、その後試験があり、合格するとCLSとして活動できるようになる。 佐々木氏も大学を経て、インターンに従事。その後、無事に試験に合格することができた。 20年前というと、子供の権利や多様性が日本で語られることはほとんどなかった時代だ。先進的な取り組み、学びを経験したことで、佐々木氏は日本で質の高いケアができたのだろう。 現在でもCLSの資格はアメリカでしか取得することができないため、CLSの資格保持者は貴重な存在でもある。佐々木氏が勤務する名古屋大学医学部附属病院小児内科病棟は37床あり、常に満床だという。 「毎日入院している子供たち全員に会うことは難しく、ジレンマを感じています。調整しながら、個室にいる子や、新しく入院してきた子、調子があまり良くない子など、会う必要性が高いお子さんから会いに行くようにしています。私が支援しているように見えますが、子供たちと一緒に遊ぶことが本当に楽しくて、私が元気をもらっていることの方が多いんです」 そう話す佐々木氏の顔は朗らかだ。この柔和な笑顔で子供たちを支えていることが、実際の場面を見なくても伝わってくる。