心はいつだってまひろのそばにある……道長の永遠に続く片思い|『光る君へ』44・45回
「もちづきの かけたることも」
やがて三条天皇が譲位、後一条天皇の即位、3人の娘たちはそれぞれ太皇太后、皇太后、中宮となり、栄華を極めているように見えた道長。 威子が中宮になった宴で、道長は「このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしと思へば」と歌を詠む。 貴族たちが聞けば、権力を全て手に入れた驕りたかぶった男の歌のように聞こえるだろう。 後日、公任(町田啓太)たちは「道長のあの歌はどういった意味だったのだろう」と話し合う。 栄華を極めた、と捉えかねないだろうが、道長がそんな歌を詠むはずがない、と口々に言う。この「光る君へ」ならではの道長像と言えるだろう。 ではどういう想いで詠んだのか……そんなの、まひろに向けて、に決まっている。歌を詠み、まひろに視線を向ける。そして、途中でインサートされるのは、道長とまひろが初めて肌を重ねた夜に見えた月。 たとえ、娘が妃となり、すべての権力を手に入れたとしても、道長の頭の中にはまひろのことでいっぱいなのだ。
手に入らない人を思い続ける苦しさ
源氏物語を書き終え、賢子も内裏で働くことになった。まひろとしてはもう思い残すことはない、という思いなのかもしれない。 1人、旅に出ることを決める。「源氏物語」の作中に出てきた場所(ある意味、聖地巡礼的なことだろうか。作者だけど)大宰府やかつての宣孝が赴任していた場所、友・さわが暮らし一生を終えた場所。 それを道長と倫子に伝えるまひろ。道長も承知し、大宰府へ向かう船があるから乗っていくといい、とまで言う。 しかし、そのあと、まひろの房にやってきて御簾を下す。前回、急に倫子がやってきたのでそこに対する警戒心かもしれない。その様子をまひろがちょっと呆れてみているように見えるのは気のせいだろうか。 そして道長がまひろに言うのは「行くな」ということだ。旅になんか行くな、ずっと俺のそばにいろ。しかし、まひろは首を横に振る。「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味とは」「ここらで違う人生も歩んでみたい」 結婚をし、子も成した。それでも、まひろの心の中にもずっと道長がいた。 まひろなりにいろんなものを手に入れたけれど、道長だけは手に入らない。まひろ自身も、自分の思いから解放されたかったのかもしれない。 ある意味、けじめをつけるように賢子が道長の子であることを告げた。驚きの表情を浮かべる道長。どうやら、本気で自分の子だとは気がついていなかったようだ。道長にとって衝撃の事実だっただろうけれど、それでもまひろに向かって発した言葉は「行くな」。前に進めない道長と、進もうとあがくまひろの対照的なシーンとも言えるかもしれない。