「イライラさせる質問かもしれません…」“批判だらけ“の記者会見、ドジャース・ロバーツ監督はニヤリと笑った…低評価「ロバーツはポストシーズンに弱い」を大谷翔平と変えるまで
「イラだたせる質問かもしれません…」
こうしたメディア対応はどのように学んだのか。そのヒントとなる言葉が本人から発せられたのは、リーグ優勝決定シリーズ第6戦前日のことだった。 じつはこのとき、アメリカでロバーツに対する批判が高まっていた。発端は第5戦の采配だ。先発したジャック・フラハティ3回8失点の大乱調だった。その彼を、なぜすぐに交代させなかったのか。試合を捨てていたのではないか。米誌『スポーツ・イラストレイテッド』でも厳しい論調の記事が出た。「1-3の場面でフラハティを代えられた。だがロバーツは何もせずにフラハティを続投させ、最終的にメッツが8点を取るまで代えなかった。その段階ではすでに勝利は手の届かないところにあった」。 猛批判を浴びていることは当然知っていたであろう。それでもロバーツは、いつもと同じようにパーカーのマフポケットに手を突っ込みながら、会見場に姿を現した。 ある記者が「質問が2つあります」と前置きしてロバーツに問う。 「少しイラだたせる質問かもしれません……」 質問した記者に視線が集まる。 「オオタニが投げる可能性はありますか?」 するとロバーツは笑みを浮かべ、記者の反応を弄ぶように、少し間を置いて答えた。 「その可能性は、ないね。質問してくれてありがとう」 それに対する記者の「これで日本のテレビに映るかな……」という発言に場が沸く。
「不安、葛藤、失敗…」ロバーツの本心
核心はこの次。同じ記者による2つ目の質問だ。大谷の登板可能性をめぐる質疑応答でロバーツも緊張が解けたのだろう。 「振り返れば2017年、モロー(ドジャースにいた投手)がワールドシリーズで全7試合に登板したことを思い出す。あのように選手を酷使したこともあった。あれから選手起用やチームマネジメントの考え方はどのように変わったか」 ロバーツが静かに話しはじめる。1分半に及んだその回答を要約する。 「私はどの瞬間も、それが最善の選択であると思って決断している。それでもうまくいかなかったとき、自分の決断は間違っていたのか、という不安に襲われる。おそらくどの監督も抱えている葛藤だろう。私はこれまで、失敗も経験してきた。うまくいかなかった場合は、プロセスが正しかったかどうかを再検証しなければならない。それは非常に辛い作業でもある。だが、その過程にこそ学びがある。(中略)我々の投手陣は、シリーズの残り試合をいい状態で迎えられる。今、主力の中継ぎ投手を酷使し、危険にさらすようなことはしていない。それは私が、過去の失敗から学んだことの一部だ」 文字にしてみると、さほどユニークな発言ではない。むしろ、どこかで聞いたことがあるような凡庸な言葉が並ぶ。それでもなぜか、筆者の胸を打つものがあった。監督就任から9年間、試合数にして1000以上。失敗と検証を気が遠くなるほど繰り返してきた、その辛苦がにじんでいたからだ。「ポストシーズンに弱い」の評に対し、本人が初めて胸の内を吐露したかのような話し方だった。 ◆◆◆ ロバーツは今シーズン、世界一に輝いたにもかかわらず、ナ・リーグ年間最優秀監督賞を逃した。3人が選ばれる最終候補にすら残らなかった。そこへいくと、アメリカでは依然として「名将」の座は与えられていない。それでもドジャースの投手、タイラー・グラスノーはこう言っていた。 「あなたのために勝ちたい。そう思わせる監督がデーブ・ロバーツだ」 大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマン。スターたちの献身を引き出すために必要だったのはカリスマ性や天才性ではなかった。それは意外にも、失敗から目をそらさない辛抱強さだった。 <前編から続く>
(「メジャーリーグPRESS」田中仰 = 文)
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