【スポーツとファッション】バドミントンシューズの栄光と黄昏 前編
青ヒゲとスマイル
そこで白羽の矢が立ったのが、タイヤメーカーのB.F.グッドリッチだった。 ジャックパーセルのヒールパッチに入る〈青ヒゲ〉という愛称でアイコン化されたインソールを開発したことを機に、グッドリッチはPFフライヤーズ(PF. Flyers)というスニーカーブランドを立ち上げる。 〈青ヒゲ〉とは、ヒールパッチに描かれた2つの青い三角形がヒゲに見えることから名付けられた愛称だが、これは、ポスチャー・ファンデーション(PF)システムに基づいて、インソールが制作されていることを示すアイコンである。 ポスチャー・ファンデーションシステムとは、足裏の内側(土踏まず側)を高く、外側を低く柔らかく設計したインソールで、それまでにない履き心地の良さ、足へのフィット感をアスリートに提供した。この〈青ヒゲ〉の恩恵は、バドミントンシューズであるジャックパーセルに、象徴的に刻み込まれた。 そして〈スマイル〉である。〈スマイル〉とは爪先に半円の溝が彫られたディテールを指す愛称だが、そのデザインが、微笑んでいるように見えることから名付けられた。 プロダクト・ライン名の由来となったジャック・パーセルは、このデザインについて「バドミントンの実用上のニーズに合わせたもので、シューズの補強に役立つ」と述べている。 そこで、〈スマイル〉がバドミントン競技においてどのように機能しているのか。この〈補強〉について、自分なりに考察してみたい。自分はバドミントン選手として推薦を受け、私立高校に入った。いちおう、ホラを吹く資格はあるだろうと思っている。
仮説スマイル
バドミントンという競技は、超軽量のシャトルを使用するため空気抵抗を受けやすく、窓を締め切った無風状態の屋内でおこなわれる。シングルスであれば、全長13.4m、幅6.1mのコートが主戦場だ。コート上を前後左右に素早く動く必要があり、瞬発力と動体視力がものをいう。同じくラケットを使うテニスと似ているが、ネット際の攻防の回数はテニスよりも圧倒的に多い。 勝敗を左右するのは――空気抵抗がより少ない状態――シャトルの飛距離が短いネット際の攻防である。相手がドロップショットやヘアピンなど、ネット際にシャトルを打ってきたとき、右利きの選手であれば、右足を前方に踏み込み、シャトルを打ち返すのが基本だが、その際、右足方向に体全体が流れてしまってはいけない。バドミントンのシャトルは、初速が異常なほど速いからだ。 自身がネット際から打ち返したシャトルを、相手が自陣後方に打ち返したら、そのシャトルに追いつくことは限りなく不可能に近い。では、どうするか。ネット際のプレー時は、シャトルを打ち返すために全力で前進すると同時に、次のシャトルの行方を予期し、コート中央あたりに素早く戻れるように急停止した状態で打ち返すのだ。そこで〈スマイル〉である。
VictorySportsNews編集部