情報の洪水で「右向け右」になる怖さ つんく♂さんが、いまの大学生に伝えたいこと
総合エンターテインメントプロデューサーとして、モーニング娘。など人気アーティストを世に送り出しているつんく♂さんは、8年ほど前から生活の拠点をハワイに移しています。海外にいるからこそ見える日本の教育の姿とは? 広い視野と多彩な経験を持つつんく♂さんに、若い世代とその保護者に伝えたいことを聞きました。 【写真】入学式でオリジナル曲を披露したつんく♂さん
――つんく♂さんは10年にわたって近畿大学の入学式をプロデュースしてきました。この10年ほどで学生の変化を感じることがありますか。 近畿大学生に限ったことではありませんが、ほとんどの学生が、スマートフォンやタブレットパソコンを持つようになったでしょう。したがって、ネットから情報を得るのが当たり前になった。結果、飛び交う情報をもとに「みんなが右だって言ってるから右だよ」っていう空気を感じるようになりましたよね。 レストランを「いいね!」の数の多さで決めたり、バイト先や就職先も口コミのいいところから探したり。まあ、それも時代です。でも、情報や口コミばかりに頼らず、情報の洪水に流されないようにすることが大事です。情報はどんどん複雑になってニセモノが混じっていることもあるから、だまされないようにすることも大事です。 そのために重要になってくるのが、「情報」を読み解く能力を身につけることなんだろうなと思います。例えばレストランなら、口コミや評価に頼るだけでなく、写真やオフィシャルサイトの情報も見て、過去にレストランに行ったときの満足度から「自分がレストランに求めること」を考えてみる。あらゆる情報を羅列して、自分の脳で解析するんです。 ネットでの買い物や、アルバイト選びでも同じです。情報や経験を頼りに、自分で何度も解析して考える。ときには失敗もするかもしれませんが、それも情報を読み解く能力につながる大事な経験の一つです。そうやって今のうちに経験を重ねて、解析能力をアップさせておくことで、いざ大事な場面に直面したときに「右向け右」にならないような、「嗅覚」や「第六感」が育まれるのではないでしょうか。 ――「いいね!」などは可視化されやすく、みんなと同じ方向に向かうほうがいいと思いがちです。 とはいえ、僕も含めて自分だけが浮いていると不安になるものです。「みんなと一緒に右向け右」は安心しますよね。だからこそ、偏差値の高い大学を目指し、人気(評価)の高い就職先を目指してしまうわけです。 僕もわが子につい「勉強してるか?」「どこの大学を目指すんだ!」と、杓子定規なことを言ってしまいます。本当は偏差値なんかよりも自分なりの将来のイメージをよりどころに前に進めるように、「どうなりたいのか」「どんな人生が楽しそうか」「やりがいを感じるものは何か」といったアドバイスをするのが正しいんだろうなと反省の日々です。 ――目標を狭めてしまわないことが大事なのでしょうか。 そうです。よく「具体的にイメージしなさい!」というような言葉を聞きますが、若いほど目標はふんわりとしていていいと思うんです。イメージする夢や目標は大きいほうがいい。大きいほど途中の失敗は失敗でなく、誤差の範囲と考えることができます。 ――失敗が「誤差の範囲」になるとはどういうことですか。 例えば、旅の目的が「ニューヨークに行くこと」くらいふんわりとしていれば、移動手段はなんでもいいじゃないですか。船でも飛行機でもいいし、メインランドにたどりついたあとはバスでも車移動でもいい。ぜんぶ正解です。乗ろうと思っていた船に乗り遅れても、結果的にニューヨークにつけばいいので、それは誤差にすぎません。 でも、目的を「飛行機の直行便でニューヨークに行く」と狭めていたら、それ以外の交通手段は全て失敗になってしまいます。旅を例にすること自体が狭い発想かもしれませんが、人生をどう楽しむかなんて、千差万別。世間で何がはやってようが、気にしちゃいけないんでしょうね。 ――途中はあくまで通過点だと思えば、いろいろなことが楽しめますね。 だから、情報を解析する経験値が必要なんです。右向け右になって選択肢を狭めないための、ね。