齊藤工さん「語るべき物語がたくさんある」児童養護施設の子どもたちの“声なき声”を描く映画を手掛けた理由
児童養護施設と、そこで生活する子どもたちに密着したドキュメンタリー映画『大きな家』のプロデュースを手掛けた齊藤工さんに、映画ライター冨永由紀さんがインタビュー。製作の背景について、細やかな視点と配慮で語っていただきました。
映画『大きな家』ができるまで
メジャーな娯楽大作からマニアックなインディペンデント作品、心温まる人間ドラマまで幅広く出演する斎藤工さん。俳優のみならず写真やチャリティなどさまざまな活動に取り組まれていますが、そのひとつが「齊藤工」名義での監督やプロデュースなど裏方としての活躍です。 以前から交流のあった児童養護施設と、そこで生活する子どもたちに密着したドキュメンタリー映画『大きな家』は、齊藤さんが旧知の仲の竹林亮監督(『14歳の栞』)に声をかけて実現しました。子どもたちのプライバシーを尊重しながら、心を開いた彼らの繊細な心情を掬いとる本作は、私たちの無意識の先入観を打ち砕くみずみずしさに満ち溢れています。
──登場するのはもともと齊藤さんが交流のあった施設だとお聞きしました。 過去にとあるプロジェクトの撮影で施設に訪れる機会があり、今回の被写体でもある男の子と仲良くなりました。1日だけだった撮影の帰りがけ、その子に「俺ね、ピアノうまいんだよ。今度、聞かせてあげるよ」と言われて。その時に「あれ、今度っていつだろう……」とつい思ってしまった僕の表情をその子が見逃さず、「そういう感じなんだね」と受け取った気がしたんです。 だったら「今度」を作ってみようと、呼ばれてもいないのに数週間後にまた施設を訪ねました。その子は驚きながら、本当にピアノを弾いてくれて、いろんな話をしてくれるようになって。そこから僕もハロウィーンでお菓子を配る係とか役割をもらって、プライベートで行くようになりました。 そのうち、施設の責任者であるご夫婦に、卒園生たちから頻繁に連絡があることを知りました。社会に出てからの困難に加えて当時はコロナ禍もあって、緊急のSOSの電話がかかってくる場面に何度か遭遇しましたが、ご夫妻がいつものことのように彼らを受け止めて、愛情深い言葉で包み込んでいる姿を見て、これは常態化しているんだと理解しました。 同時に、これは自分が見て見ぬふりをしてきた世界であり、語るべき物語がたくさんあるんじゃないかと思った。そのタイミングで『14歳の栞』を見たんです。親交のある竹林さんの劇場デビュー作で、中学2年生の1クラス35人に密着した作品ですが、そこには被写体を守る姿勢があったんです。 観客である僕も一緒に守る感覚で映画に触れ合うという、これこそ本当に被写体に対して敬意を払ったドキュメンタリーの在り方じゃないかと思いました。竹林監督の愛のある目線ならば、あの施設の人たちを必然的に映画にできるのでは、とお声がけしたのが始まりです。 スタイリング=Yohei "yoppy" Yoshida ヘア&メイク=Shuji Akatsuka セットアップ/Y’s for men(ワイズフォーメン tel.03-5463-1540) シャツ/Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト tel.03-5463-1500)