現役引退→社長兼GM…なぜ元日本代表MF細貝萌はザスパ群馬での異色のセカンドキャリアへ挑むのか?
選手からクラブ経営のトップに進むケースは、決して珍しくはない。現時点ではセレッソ大阪の森島寛晃氏(52)と湘南ベルマーレの坂本紘司氏(45)が代表取締役社長を務めているが、ともに引退から10年近い時間を経ての就任だった。 現役引退から即、代表取締役社長に就任したケースとして、2022年の年末から務めるJ2レノファ山口の渡部博文社長(37)がいる。ただ、渡部氏は山口移籍後の2021年に、就学児を対象とした放課後等デイサービス事業を行う「株式会社ESPORTES」を山口県防府市内に設立し、いま現在も代表取締役社長を務めている。 細貝はGMも兼任する点で森島氏、坂本氏、そして渡部氏よりも異彩を放ち、さらに日本代表で30試合に出場し、ヨーロッパとアジアの計10クラブでプレーしたキャリアも加わる。細貝に社長兼GM就任を託した理由を、赤堀社長はこう語る。 「群馬県前橋市の出身であり、最後は群馬へ帰ってきて現役を終えたキャリアもあり、名実ともにザスパ再生の象徴として、群馬サッカー界のシンボルにもっともふさわしい人物である細貝さんに、社長になっていただくのが最良の判断だと思いました」 とはいえ、選手と経営者とでは日々向き合う仕事をはじめとして、すべてが異なる。細貝も「やはりいろいろな目もあると思います」と、自身の手腕に対して懐疑的な視線を向けられる状況を織り込んだうえでこう続けた。 「いままで20年間も選手だったので、本当にお前にできるのか、と思われるケースはたくさんあると思っています。もちろん群馬が好きだからとか、情熱はあるというだけではなく、自分がここにいる意味をより明確にして仕事に臨んでいきたい。たとえばドイツのレバークーゼンやヘルタ・ベルリンといった規模の大きいクラブでの経験を、少しでもこの群馬に落とし込みながらより拡大させていく。こうした長期的な形で、クラブをいい方向に導いていけるように努力していきたい」 来年以降は赤堀会長が事業戦略や管理部門、JリーグやJFAとの連携を担い、細貝新社長がトップチーム強化やアカデミー全般のフットボール戦略、営業やイベントを含めたホームタウン活動と役割を分担し、状況によってはクロスオーバーさせていく。 特にGMも兼ねる細貝の仕事は、退任した武藤覚監督(48)の後任選定をはじめ、来シーズンのJ3リーグを勝ち抜き、1年でJ2復帰を果たす陣容作りを早急に進めなければいけない。経営と編成のトップに立つ心構えを、細貝はこう語っている。 「お互いをリスペクトし合って進んでいきたい。一方通行ではなく、それでいて仲良くやっていこう、というわけでもない。意見があればお互い言い合いながら、人と人がしっかりと接するなかでクラブをよくしていきたい。もちろん僕自身も、わからない件に関してはすすんで学んでいく姿勢を忘れないようにしていきたい」 体制が変わっても、2030年までに売上高を最新の数字となる2023年度の約7億9000万円から20億円に伸ばし、悲願のJ1昇格を果たす中期目標は変わらない。来年2月1日の社長代行兼GM、そして同4月の代表取締役社長兼GMへの就任を待たずに、38歳の青年社長はユニフォームを背広に変えて全力で走り出そうとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)