恐るべき「ボンネット突き上げ病」とは? ヤフオク7万円のシトロエン・オーナー、エンジン編集部ウエダ 入手困難なパーツを求めてふたたび海外行きを企てる! その2
探し求めていたパーツは見つかるのか?
ヤフー・オークションで7万円のシトロエン・エグザンティアを手に入れ、10カ月と200万円かけての大規模修復後、走り出したエンジン編集部員ウエダによる自腹散財リポート。2023年はポーランドとフランスを訪ね、エグザンティアに関する2つのイベントに参加したが、それに続き、2024年もふたたび海外に出かけることになるきっかけをご報告する。 【写真8枚】ハイドローリック・シトロエンの鬼門、「ボンネット突き上げ病」とは? XMの衝撃の写真はこちら ◆ハイドロ車維持の要となる部品 ポーランドでフランス車の情報を発信しているウェブサイト、francuskie.pl(フランクスキー.pl)の編集長、Krzysztof Gregorczyk(クシシュトフ・グレゴルチク)さんと日本で再会した時点では、僕はまったく彼の国を再訪することなど考えていなかった。では、なぜ、ふたたびポーランド行きが決まったのか。実は最初に目指すことになったのは、ポーランドではなく、隣国リトアニアのある企業だった。 話は2023年の秋に遡る。僕はFacebook上で、あるニュースを目にした。日本シトロエン・クラブのメンバーが【XMのストラット・マウント販売情報】というタイトルで、海外でラバー製のストラット・アッパーマウントが再生産されることを発表したのだ。 このストラット・アッパーマウントはエグザンティアをはじめ、XMやBXなどハイドローリック・システムを備えるシトロエンたちの鬼門である。サスペンション・シリンダーと車体と窒素ガスの入ったスフェアを繋ぐ、金属のドームと筒の間をラバーで囲んだ構造の部品なのだが、経年劣化でこのドーム内側のラバーが崩壊し、最終的にはドームとシリンダーがボンネットを突き上げ変形させるという、とんでもないリスクを背負っている。 走行中の突き上げ事例はあまり報告されていないが、停止中に遭遇した経験者によれば「ボン!」という音と共にいきなりボンネットが持ち上がり、ぐにゃりと変形してしまうそうだ。当然こんなことになればまったく動けなくなる。鈑金修理に必要なコストも手間もかなりのものになる。かつてはこれを恐れ、エグザンティアを降りた人も少なくない。XMではリコール対象にもなったようだが、エグザンティアやBXではそうした対応はされていない。 いわゆる“アッパーマウント抜け”、いうなれば“ボンネット突き上げ病”とも言うべきこの現象は、2世代ある近年のC5ではあまり事例を聞かないが、C6でも同じ現象があると、ウェブ上ではときおり話題になっている。 日本シトロエン・クラブのメンバーによれば、なんと再生産されるラバー製のストラット・アッパーマウントの金型は、ステランティスから正式に入手した図面を元に造られている。そして驚いたことに、エグザンティアにも対応可能だというのだ! やりとりは日本を愛するオランダのシトロエンXMオーナーが対応してくれる上に、ロシアのウクライナ侵攻以来高騰し続けている輸送料金も、共同購入を募ることでかなり圧縮できるらしい。価格は送料別で左右一対350ユーロと、さほど高くもない。保障は購入から3年間。ただし製造はこのとき発注する1ロットのみで、次の生産予定はないという。 もちろん僕は即、購入を決意。速攻で手を挙げたのだが、残念ながらマウントのバリエーションが少ないXMに対し、エグザンティアは複数あるサスペンションの構造ごとに細かく仕様が異なっており、なんとエグザンティア用については再生産計画自体が中止となってしまった……。そして、このことがきっかけで、僕のストラット・アッパーマウント捜索は、火がついてしまったのである。 ◆純正パーツは世界的に枯渇 エグザンティア用のストラット・アッパーマウントに関しては、シンプルな仕掛けのハイドロニューマチック用はまだ純正の部品が流通しており、かつ突き抜けないような対策品になっているそうだ。だがリポート車のハイドラクティブ2用をはじめ、アクティバなど上位車種用は枯渇しており、ほぼ純正部品は見つからない状況だった。 いちおうイギリスのシトロエン専門店など販売しているところもあるのだが、片側で約285ポンドとかなり高価になっていた。もっとも、たとえ純正部品が見つかったとしても、生産からかなり歳月の経ったデッドストック品である。ラバーの状態がどれほどかは、買ってみなければ分からない。 僕は最初にギリシャで販売されていたデッドストック品を購入しようと画策していたのだが、残念ながらこれは連絡が取れず断念。フランスのシトロエン博物館、コンセルヴァトワールで出会ったアクティバ・クラブの面々も、同じくラバー製の再生産プロジェクトも立ち上げていたのだが、悲しいことにどうやら失敗に終わったらしい。 リポート車については交換履歴があるとは前オーナーから聞いていたが、その時期がはっきりとしていなかった。2015年8月、走行10万4501km時点の記録簿には、交換を推奨する項目に記載はされているのだが……。持込品、とも書かれているのでもしかしたら交換しているのかもしれない。とはいえ、このタイミングで交換していたとしても、それからすでに8年以上が過ぎ、8万kmくらいは走っている。 外から見る限りでは劣化の度合いはよく分からないのだが、エグザンティアに乗り続けるには、いつかはやらなければならない、見過ごせない部品なのは間違いない。 ◆世界に1カ所しかない 実はこのストラット・アッパーマウントのリビルド、つまりオリジナル部品を元に、ラバー部分を新たに別素材で再生している企業が、リトアニアの西の都市、カウナスにあることを、僕は前々から知っていた。昔ながらのシンプルなホームページがあり、再生産について紹介をしていたからだ。近頃はBX用やXM用はイギリスやポーランドで再生産品を販売しているようだが、エグザンティア用としてリビルドを行っているのは、僕の知る限り世界でここしかなかった。 リトアニアがどんな国で、何があるのか。僕にはまったく知識がなかった。でも、何も知らなかったポーランドへ2023年春に旅した時のことが、ふっと蘇ってきた。直接現地に行って、色々なものを目にして、人々とふれあうことが、どれほど面白く人生の幅を拡げてくれたかことか……。さらに、いったい誰が、どんなところで、どうやってアッパーマウントを直しているのか。なぜ、こんなにマニアックなことをビジネスにしているのか。それはオリジナルとどう違うのか。疑問がどんどん湧き上がってきた。 こうして僕は、リトアニアの企業とコンタクトを取ることにした。そしてそれが彼の国だけでなく、ポーランドのフランクスキー.pl編集長、クシシュトフが誘ってくれたイベントを含む、東欧を駆け回ることになる2024年の旅へと繋がっていったのである。 次回はリトアニアからもたらされた返事と、様々な偶然が重なり合って見事に旅程が組みあがっていく模様と、以前ちょっとだけご報告したシート生地の発見についてもリポートする。 ■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX 購入価格 7万円(板金を含む2023年12月時点までの支払い総額は279万2253円) 導入時期 2021年6月 走行距離 18万2687km(購入時15万8970km) 文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=岡村智明、日本シトロエン・クラブ (ENGINEWEBオリジナル)
ENGINE編集部
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