「みんなと仲良くしなくていい」...協調性に固執する日本人が見落としがちな“当たり前”のコミュニケーション技術
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第5回 『終わりのない「苦しみ」がずっと続く...話し合いで「自分の意見を言わない人」が知らず知らず背負っている“サンドバック化”のリスク』より続く
好きじゃない人とは仲良くしなくていい
コミュニケーションは技術で、やればやるだけ上達する。ぶつかる「苦しさ」だけではなく、ぶつかることも減らすことができる方法がいろいろとあるんだ。 その前に、とても大切なことを言います。 君は、「クラスみんな仲良く」しなくていいのです。 こう言うと、ぼくの話を聞いていた教室がざわつきました。今まで言われていたことの正反対だからでしょう。 でもね、冷静に考えて「みんな仲良く」なんてできると思う? ぼくは断言するけど、大人だって、そんなことは無理だよ。 好きな人もいれば、嫌いな人もいる。相性の良い相手もいれば、相性の悪い相手もいる。人間として、とても当たり前のことだと思う。なのに「クラスみんな仲良く」なんて無理なことを要求するから、みんなイラ立っていじめも増えるんじゃないかとぼくは思ってるんだ。 好きじゃない人とは、仲良くしなくていい。だってできないんだからね。
嫌いな人と協力する
でもね、「仲良くしなくていい」ことと、「無視していい」ことは別なんだ。 君はやがて、大人になって社会に出る。生活するためには、お金が必要になる。そのためには、仕事をすることになる。 そういう時に、仕事の相手がみんな「好きな人」だけ、なんてことはありえない。それは想像できるね。 当然、嫌いな人もいる。その人が君と同じチームのメンバーだとしよう。例えば、販売チームにしようか。どうやったら商品がたくさん売れるかみんなで考え、行動するチームだ。 その時、嫌いな人でも、その人の意見をちゃんと聞くことは重要なことなんだ。嫌いだから聞かないとか、嫌いだから初めから無視するなんてことをしたら、販売チームそのものがうまくいかなくなってしまう。 どんなに嫌いでも、相手を尊重し、相手の意見を聞く。そして、協力していい結果をだすことが大切なんだ。そう「協働」だね。 間違えないでね。ぼくは「嫌いな人を好きになれ」と言ってるんじゃないんだ。嫌いな人は嫌いなままでいい。好きにならなくていい。嫌いなままで、協力し合うことが大切なんだ。 えっ? 嫌いな人とそんなことができるとは思えない? うん。難しいね。だからこそ、学校で「協働する方法」を学ぶんだ。 「嫌いな人とも一緒に協働すること」が大切で、「みんな仲良く」が大切じゃないんだ。
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