豪雨災害の原因を気候変動になすりつけ、失敗認めずダム建設にしがみつく治水行政の背信
「流域治水にダムは必要か」というテーマで講演を頼まれた。この連載を読んでくださったようだ。そこで「流域治水」という観点から、これまで取材してきたことを振り返ってまとめてみることにした。 【写真】「平成27年9月関東・東北豪雨」による利根川支流・鬼怒川の氾濫被害 ■ ダムや堤防だけでなく住宅地や森林、農地をも活用する「流域治水」への転換 流域治水と言えば、日本では2014年に滋賀県が「流域治水推進条例」を作ったことが有名だ。嘉田由紀子知事(当時)が住民参加で8年をかけて、河川改修やダムだけに頼らない治水について提案し続け、成立させた。川だけでなく、まち、道、家づくりや森林、農地も治水に役立てる。備えるための対策では、宅地建物取引業者が、取引相手に水害リスク情報を提供することを努力義務化したのも一つの特徴だ。 国も、6年後の2020年、やっと宅地建物取引業法の施行規則を改正した。不動産取引の際、水防法に基づく水害ハザードマップで洪水・雨水出水・高潮リスクのある物件なら、それを「重要事項」として知らせることを義務づけた。 「点」と「線」、つまり「ダム」と「堤防」だけで治水を考えず、「面」でも考える新たな「流域治水」が始まるはずだった。 国が「流域治水」に目を向け始めたのは、以下のように、全国で豪雨・氾濫被害が続いたからだった。 2015年「平成27年9月関東・東北豪雨」 2016年「平成28年8月北海道・東北豪雨」 2017年「平成29年7月九州北部豪雨」 2018年「平成30年7月豪雨」 2019年「令和元年東日本台風」 2020年「令和2年7月豪雨」 「平成30年7月豪雨」では、沖縄から北海道まで全国で、死者224名、行方不明8名、負傷427名の被害が出たことが、内閣府非常災害対策本部の記録に残っている。
■ 豪雨災害の原因は気候変動だけ? 国土交通省は、2018年に「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」を設置。2021年、同検討会は、世界の平均気温が2度上昇すれば、降雨は1.1倍、流量は1.2倍、洪水発生頻度は2倍になるから、それを踏まえた治水計画が必要だと提言した。 「2度」とは国連の気候変動枠組条約締約国会議が「パリ協定」で定めた産業革命以前と比べて、それよりも「十分低く保たねばならない」と決めた上昇温度だ。 国土交通省は、同年、通称「流域治水関連法案」を作り、国会は成立させた。 言い換えると、豪雨災害が続いたのは、気候変動が原因であって、従来の治水のあり方が悪かったわけではないというスタンスなのだ。