「ねぇアンタ、早朝に再放送してる時代劇にハマるようになったら…」 室井滋の新作エッセイ集はまさに年末年始向き!(レビュー)
タイトルから小川知子のヒット曲「ゆうべの秘密」を想起した人もいると思います。著者が意識したかどうかは分かりませんが、本書がそれを知る層に向けたものであることは間違いないでしょう。 著者の俳優としての活躍はつとに知られるところですが、2023年には、請われて故郷・富山の「高志の国文学館」の館長に就任しています。 そして著者のもう一つの仕事に文筆があります。絵本の原作をはじめ、エッセイは特に人気で、本作は読者が待ちかねた5年ぶりの新作エッセイ集です。 「はじめに」からしてすでに面白い。著者は年上のオバサンにこう言われます。 〈ねぇアンタ、早朝に再放送してる時代劇にハマるようになったら、人生の坂道を下り始めた証拠よ〉 と。著者は実際ハマっているのでドキッとしますが、反転攻勢に出ます。 〈でも、どうだろう? これらの良さをようやく感じられるようになったこの私が“人生下り坂”だなんて。あり得ない!〉 そして、 〈私はムヒヒと笑って、我が道を突き進もう〉 となるのです。 そうして始まる第一話が「嘆きのおパンツ様」で、開始早々に下ネタ全開となります。でもご安心を。決して下品には流れません。自宅前に放置されたそれを〈わざと置いた……知らずに落とした……何らかの理由で置き忘れた……〉とあれこれ想像する話です。 そんな話が全部で103編、惹句に〈オバサンは止まらない!〉とある通り笑ったり考えさせられたりが続きます。もちろん小膝を打ったりもします。 それでいて読後感は痛快と言える読み物で、年末年始に打ってつけではないでしょうか。どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。 [レビュアー]立川談四楼(落語家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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