開発スタートから3年半、お蔵入り覚悟したことも…学生が製造した超小型衛星ついに宇宙へ
千葉工業大学(千葉県習志野市)の学生グループが製造した超小型衛星の第1号機「YOMOGI」を積んだロケットが、日本時間の5日昼前、米国から打ち上げられた。2021年6月に開発を始めたが、コロナ禍やウクライナ情勢の影響などで打ち上げは2年以上遅れた。学生たちは達成感をかみしめながら、宇宙での運用準備を進めている。(芝田裕一)
YOMOGIの開発を担当したのは、同大の宇宙産業向け人材育成プログラムの1期生だ。
開発は苦労の連続だった。指導した同大惑星探査研究センターの原田徹郎研究員(40)によると、開発当初は新型コロナウイルスの感染防止のため、一度に5、6人しか作業部屋に入れなかった。大学にも午後6時までしか残れず、作業時間も確保できなかった。22年2月にロシアによるウクライナ侵略が始まると、基板に使う樹脂や半導体などが入手困難になった。
総務省などに提出する周波数の申請手続きに手間取ったことも、作業の遅れに拍車をかけた。予備免許を取る試験の実施手順に手違いがあり、衛星を一度分解するよう命じられたが、部品を買い直さなければならなくなってしまった。23年3月、1期生の学部卒業を前に製造は中断した。
同センターでは、YOMOGIをお蔵入りにする案も検討された。「1号機はあきらめないといけないだろうと覚悟した」。1期生で、プロジェクトマネジャーを務めた大村紬さん(25)(同大大学院2年)は振り返る。
一方、YOMOGIの「産みの苦しみ」を手本にした2号機「KASHIWA」と3号機「SAKURA」の製造は順調に進んでいた。大学側は学生たちの希望をくみ、YOMOGIの製造続行を決断。KASHIWAの製造を終えた後輩たちがチームに加わったことで開発も加速し、23年夏に完成にこぎ着けた。
完成したYOMOGIは、KASHIWA(24年4月運用開始)とSAKURA(8月同)に続き、年内にも国際宇宙ステーションから宇宙へ放出される予定だ。東京湾の赤潮発生やアフリカの湖の水質変化などを観測するとともに、森や海に設置した環境センサーのデータを中継するのが主な任務という。
製造に関わった1期生12人のうち、3人は卒業後に就職した。その一人で、衛星通信事業者のスカパーJSATで働く田中泰吾さん(24)は、「皆で一丸となって前に進んだ濃密な経験は、かけがえのない思い出だ」と語り、「何もなかった作業部屋から打ち上げまでこぎつけられて安堵(あんど)した」と喜んでいる。