斎藤工、『海に眠るダイヤモンド』は2024年の集大成に “ふたつの顔”が生む演技の質感
放送中の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)は、若手からベテランまで、力のある演技者たちが一堂に会している作品だ。そのことは、回を重ねるごとに視聴者の一人ひとりが強く実感していることだろう。素晴らしいシーンが次々と誕生している。各エピソードごとにとくに注目すべき登場人物がいるが、いまもっとも熱視線を浴びているのは荒木進平ではないだろうか。演じているのは斎藤工である。 【写真】進平(斎藤工)と栄子(佐藤めぐみ)の出会いのシーン 本作は、1955年からの石炭産業で躍進した長崎県の端島(「軍艦島」ともいわれる)と現代の東京を舞台とし、70年にわたる愛と友情、そして家族の壮大な物語を描くものだ。斎藤が演じる進平は、主人公・荒木鉄平(神木隆之介)の兄。炭鉱員として働く彼は決して口数の多い男ではないが、仲間思いで、弟の相談にも真摯に向き合う頼もしい存在だ。 しかもこの頼もしさは、鉄平との関係においてだけでなく、作品全体においてもいえるもの。若者たちの青春模様を中心に展開していく物語の中で、進平は太い帆柱のような存在であり続けている。しかしそのいっぽうで彼は、台風によって波に連れ去られた妻・栄子(佐藤めぐみ)の死を認めることができず、いつまでも帰りを待ち続ける人物でもある。演じる斎藤は、進平が対面する相手やシチュエーションによって演技の質感を柔軟に、なおかつ的確に変えているように感じる。 鉄平や仲間たちとともにいるときの進平の声と表情には力を感じるが、帰らぬ妻に思いを馳せているときは心ここにあらず。声も表情も憂いを帯びているというよりも、もはや空虚さすら感じさせる。私たち視聴者の誰もが彼の感情に触れようとしてきただろう。ところがどれだけ彼に寄り添おうとしても、その心の奥底をのぞくことはできやしない。シーンが変われば進平は変わる。いや、変わらざるを得ないのだ。 彼のある一面は大きな喪失感を抱えた男性だが、また別のある一面はまぎれもなく、1950年代後半の端島で生きるひとりの炭鉱員なのだから。斎藤が体現する進平からにじみ出る生命力の量が、愛と友情、そして家族の物語をより複雑で深みのあるものにしていると思う。