春を連れて「里帰り」 ツバメの子育てをやさしく見守る釣具店/福岡県糸島市・福岡市
たくさんの傘が“防護ネット”のようにつるされているが、その隙間からヒナが落下してしまうことは時折あるという。けがをしたり、カラスやヘビに襲われたりする恐れがあり、見つけるたびに店員らが大きな脚立を使って元の巣に戻すそうだ。
アルバイトを始めて半年という大学3年の金崎龍紀さん(20)は、7段ある脚立にのぼり、落ちたヒナをそっと巣に戻した。「後ろ向きで巣に帰したけど大丈夫だろうか」と心配そうな金崎さん。「何とか生き延びてほしい」と巣を見上げていた。
「巣を作る家には幸運」
日本野鳥の会によると、昆虫を食べるツバメは農作物を害虫から守る益鳥として知られ、「巣を作る家には幸運が訪れる」という言い伝えもある。 しかし時代と環境の変化で、「フンで汚れる」「病気を運んでくるのでは」と敬遠する人も増えた。日本野鳥の会が2013年から8年かけ、ツバメの子育てが失敗した原因を目撃情報から調べたところ、天敵に襲われたことに続き、人によって巣が撤去されたことが報告された。
そうした中、野鳥の会は2019年、ツバメを温かく見守っている団体に感謝状の贈呈を始めた。中原釣具は2021年に贈られ、額に入れた賞状を店内に大切に飾っている。 毎年のように同じ巣のある場所に戻ってくるので、ツバメは長生きなのだと思っていたが、野鳥の会によると、成鳥になってからの平均寿命は1.6年ほどという。南方で冬を越して無事に戻ってくるのは2割程度にすぎないそうだ。
人の出入りがある場所を選んで巣を作るツバメ。人の暮らしとの共生を選んだツバメを、人間もまた受け入れてきた。自然の中に人々の営みがある郊外の釣具店で、毎年やって来る”相棒”たちに注がれる店員や客のまなざしは、どれもやさしかった。
読売新聞