内閣総理大臣の裏切り⁉...過去「最恐」の春闘を牽引した国労がハマった恐ろしすぎる「ワナ」
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第10回 『国鉄の悲惨すぎる「大失敗」...春闘を牽引した労働組合の圧勝した理由』より続く
春闘を牽引する国労
東海道新幹線の整備をきっかけに膨らみ始めた国鉄の赤字は、1980(昭和55)年代に入ってついに1兆円の大台を突破する。80年度決算の純損失が1兆84億円にのぼり、積もりに積もった長期債務残高は14兆3992億円を記録した。 それでもこの間、マル生闘争で勝利した国労や動労は、労働界のリーダーとして春闘を牽引してきた。組合側には、自分たちの働く会社の赤字を顧みない驕りがあったというほかない。国労と動労はさらに通常の賃上げだけでは満足せず、1975年の春闘でスト権を獲得しようとした。それが、国鉄の経営にさらに暗い影を落とすことになる。
秘策のストライキ
日本国憲法28条は労働者に「団結権」「団体交渉権」「争議権」を認めており、このなかの争議権がいわゆるストライキをする権利だ。ただし、憲法にはその前段の12条に公共の福祉を増進する義務が明記されている。霞が関の各省庁が担ってきた国鉄、日本電電公社、日本専売公社の三公社、郵政、国有林野、印刷、造幣、アルコール専売の五現業に勤める労働者たちもこの考えに当てはまる。したがってスト権がないとされてきた。 しかし労働界のリーダーを自任する国労は抵抗した。スト権の奪取を悲願とし、悪名高い「スト権スト」闘争に突入する。そこには、政治的な計算も働いていた。 75年といえば、田中角栄が金権スキャンダルで退任し、三木武夫がクリーンな政治を掲げて後継首相に就いていた。三木は自民党内でもハト派で知られ、労働組合の活動に一定の理解を示し、スト権ストを容認する。国労は現職総理大臣が自分たちの味方だと期待した。 そして国労は計画通り1975年11月26日、スト権ストに踏み切った。日本全国2万3000の新幹線や在来線がストップし、普段は通勤ラッシュでごった返す主要駅が大混乱に陥り、人影が絶えた。1日あたり2200万人の足が途絶えるといわれたスト権ストは10日間が予定され、とりわけ首都圏機能が麻痺すると思われた。 貨物列車の運行を3日間止めれば、東京に物資が届かなくなる。すると首都圏の生活が脅かされ、困った政府は国労の要求を呑まざるをえなくなる――。それがスト権ストを成功させるための国労の青写真だった。東京都の台所である築地の中央卸売市場に集まる肉や魚、野菜などが消え、都民が悲鳴を上げると思いこんだ。実際、ストが始まると国労の組合員たちが築地に出かけた。