裁判の証言“信用性”はどう判断する? 「何が間違いない事実なのか」という観点の重要性
間違えないための思考法
「何が真実か」という視点はもちろん重要です。しかし、人間は直感的な判断を避けることができない生き物であり、印象に基づく判断によって間違えてしまうこともあります。このような状況でえん罪を避けるためには、「何が正しい事実なのか」だけではなく「何が間違いない事実なのか」という観点を踏まえて事実を見極めることが重要だと思います。 裁判においても、まずは誰の目から見ても明らかな客観的な事実を「動かしがたい事実」として、それを事実認定の大前提にするところから始めます。その上で、検察や弁護人が提出していく証拠を吟味し、それらから「これは間違いないだろう」と言えるような、できるかぎり堅い推認を積み上げていくことになります。 このように、「何が間違いないのか」という視点こそが、間違えないための思考法のカギになると思います。
四大えん罪証拠とは何か
刑事裁判にはさまざまな証拠が提出されます。 たとえば、万引きによる窃盗事件の裁判では、犯行を目撃した店員の目撃証言や盗まれた商品に付着した指紋に関する科学鑑定のほかに、その商品がレジを通っていないことに関する報告書、その被害金額や外観に関する報告書、被告人の所持金や所持品に関する報告書、被告人の入店時刻や犯行時刻に関する報告書、被告人の供述を記録した供述調書など、さまざまな証拠が請求されます。 このようなさまざまな証拠の中でも、特に①虚偽自白、②共犯者の虚偽供述、③目撃供述、④科学的証拠については、昔から人を誤らせる危険のある証拠類型だと世界的に言われつづけてきました。 実際に、日本における戦後の代表的なえん罪事件42 件を調べたところ、次の証拠がそれぞれの事件に含まれていたことが分かりました。 自白…69% 共犯者供述…35・7% 目撃供述…45・2% 科学的証拠…62・7% 私はこれら4つの証拠を「四大えん罪証拠」と呼んでいます。そして、これらの数字は同じような原因に基づいて同じようなえん罪が再生産されていることを示唆しています。
西 愛礼(にし よしゆき)