現役ドラフトとはラストチャンスの場。北村は必ず活躍してくれるはずです【デーブ大久保 さあ、話しましょう!】
あれはプロ5年目か、6年目の秋季キャンプだったと思います。当時二軍投手コーチをされていた森繁和さんから呼ばれ「お前、野手のコーチ陣から見捨てられたぞ。生きていくのは投手しかないから」と言われたことがあります。実際に翌日から2日間、投手と同じ練習メニューをこなしました。でも、こんなの無理だな、と。それ以降はブルペン捕手のような日々を過ごしていました。 【選手データ】北村拓己 プロフィール・通算成績 この時期は、私にとって「黒歴史」です。境遇での黒歴史ではありません。自分自身の精神面でのことです。「試合に出られないのは監督のせいだ。オレを使えば活躍するのに」などという自分勝手な思い込みをして勝手にふてくされていました。ただ、そのあとに「結果が出ないのを人のせいにするのはやめよう」という思いになり、その改心後に巨人にトレードされることになりました。 巨人で少しだけ活躍をすることができましたが、そのときに初めて、やはりあの時期は、身勝手な考えをしていたな、と反省しました。「お前は二軍でお金をもらって野球をやっているが、まだ一度も、一軍で活躍しファンを喜ばせ、お金をもらっていないだろ」と、当時の根本陸夫球団本部長に言われたことがあります。巨人に移籍して初めて、その言葉が身に染みました。そして引退後は野球解説者や現場監督、コーチとして野球に携わっています。 現役ドラフトが先日行われましたが、そこで移籍する選手たちにとっては、チャンスです。トレードで人生を変えられた一人でもある私からすれば、この制度を使うことで移籍する選手たちは、野球人生を変えられる大きな機会を得ました。 現役ドラフトで移籍する選手たちには、この制度を生かすためという名目もありますが、必ず出場機会、チャンスが与えられます。そこでどういう結果を残すかが、大きな野球人生の分岐点になると思います。そのチャンスをつかむかどうかは、今まで、自分の中でいかに黒歴史の時間を短くするかに掛かっているのかな、と感じています。 誰しも二軍に降格になったり、一軍出場が減っていくと、ふてくされてしまうものです。プロ選手として当然のこと。ただ、そこから1日でも早く立ち直り、まじめに黙々とプレーし続けた選手ほど、機会を得たときに結果を残すのだと思います。 さて現役ドラフトで、巨人からヤクルトに北村拓己が移籍します。私自身は、すごく良いチャンスをもらったと思っています。二軍では思い切りバットを振れていましたが、一軍に来るとどうしても結果が欲しくて、小さな打撃になっていました。 亜大では主将を務めた、まじめで犠牲心の強い男です。巨人のときはどうしても結果のみを求めてしまい小さなスイングになっていましたが、ヤクルトでは最後のチャンスだと思って、一軍で思い切りバットを振ってほしいです。才能は素晴らしいものがありますし、彼の中での黒歴史もないと思います。だからこそ本気で北村を応援しています。
週刊ベースボール