全国学力テスト「毎年やる必要はあるのか」に真っ向から反対する…「割合」を解けない小中学生たちがもたらす最悪の事態
全国学力テストを考え直す
科学や社会の発展を考えると、多くは問題提起から始まる。 したがって、いくつかの問題に関して率直に問題提起をする村井嘉浩宮城県知事の姿勢は評価したい。 【数学間違い探し】大学生でも間違える計算「40-16÷4÷2」の答えは？ 一部に問題提起をした人に対して、「だったら具体的な解決策を示せ」という暴論を吐く者がいるが、問題提起から何百年も未解決のまま推移しているいろいろな数学の問題を目の当たりにしてきた者として、そのような暴論を吐く気持ちは全くない。 全国知事会長でもある村井知事は最近、大多数の小学6年と中学3年生が参加している全国学力テストに関して、以下の問題提起をしたことがいくつものメディアによって紹介されている。 ●労力やコストの面から「毎年やる必要はあるのか」 ●学力レベルを見るだけならば「数年に1回やれば傾向は見える」 ●都道府県ごとの正答率を公表することに「何の意味があるのか」 ●もっと詳細にやるならば「市町村の順位まで出さないと意味がないのではないか」との意見が全国知事会であったことを公表。 本稿では上記の問題提起に対して、長年に渡って数学教育に携わってきた者としての私見を述べるものである。
“競争”は無意味
そもそも、全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)の目的には以下のことが述べられている。 ●義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。 ●学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。 ●そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。 どこを見ても、都道府県ごとの成績順位によって競わせるようなことは述べられていない。 一応、調査結果に関しては国全体、各都道府県・指定都市、地域の規模等における調査結果も公表しているので、毎年のようにマスコミ各社は主にその点に注目して結果を報道している。それが意味のない“競争”を引き起こしているに過ぎないと考える。 筆者としては、国全体の調査結果を発表するだけでもよいと考える。 国立教育政策研究所は全国学力テストの詳しい分析結果を公表しており、それを参考にすれば、日本の子ども達のどのような点に力を入れて育てればよいかが分かるだろう。 また、受験した児童・生徒は一通り問題に取り組んでいるので、後日、教員が各問題を解説すると、問題の解答に関する理解が深まることになる。 大切なことは満点を取ることではなく、できなかった問題をできるように理解することであって、それによって学力は向上するのである。 筆者は2007年に、桜美林大学リベラルアーツ学群の設置人事で東京理科大学から移り、昨年に定年退職して現在に至る。 90年代から始めた小・中・高校への出前授業も、全国各地の教員研修会での講演も積極的にお引き受けし、それぞれ200カ所ぐらいでスピーチしたことになる。 講演や授業を受けている方々が、筆者の話で分かったことがあると、頷いたりニコッと笑う表情が嬉しいのである。 その心をずっともってきただけに、勤めて数年後に大学就職委員長を補職としてお引き受けしたとき、思わぬ出来事に直面した。
