全国学力テスト「毎年やる必要はあるのか」に真っ向から反対する…「割合」を解けない小中学生たちがもたらす最悪の事態
政府が掲げる今後の目標
さて政府の教育未来創造会議(議長=岸田首相)は2022年5月に、理系分野を専攻する大学生の割合を2032年ごろまでに現在の35%から50%程度に増やす目標を掲げた。 技術立国日本としての戦後の復興期に生きてきた筆者としては、主な資源が人材である日本の将来を考えると、この方針に賛成するものであり、それだけに基礎として必須の算数力や数学力の充実にも目を向けてもらいたいのである。 参考までに述べると、文科省などの調査によると2021年度の日本の大学の入学者のうち、理学、工学部の入学者の割合は約17%だった一方で、OECD平均は約27%であった。 また、大学学部の卒業段階で見ても、理系分野全体での学位取得者の割合は、日本は推計で35%(2020年度)であるものの、40%を超えているイギリス、ドイツ、韓国と比べると見劣りする。 この問題の背景を考えると、1990年頃には、日本のGDP(国内総生産)は2位で、IMD(世界競争力年鑑)では1位であったが、2023年にはそれぞれ4位、35位となった。 このような現状を鑑みて、経済産業省は2019年に「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」というレポートを発表し、政府の教育未来創造会議の目標に繋がったと考える。 「割合%」は、理系分野だけでなく現代社会全般で極めて重要な概念であり、その指導が不十分であってはならないのだ。 マスコミ各社の皆様には、都道府県別の成績に注目するのではなく、このような日本の将来にとって重要な課題に注目していただきたいのである。 そもそもマスコミ報道には、「割合%をきちんと理解しているのだろうか」という疑念を抱かせる問題を垣間見ることができる。いくつか紹介しよう。
マスコミも割合への理解が足りていない
割合%の問題では当然、「もとにする量」と「比べられる量」を述べなくてはならない。 「もとにする量」が明確な場合は省略しても構わないが、そうでない場合についても省略する報道を見聞きすることがある。全国学力テストの問題についても、そのような報道をした新聞社がある。 有名中学校の入試算数問題には、現実を無視した呆れた問題がたまにある。 食塩水の濃度に関しては最大で28.2%(100℃)であるにも関わらず、それよりはるかに大きい濃度の問題がよくあった。 そのような困った問題を教育系の学会誌にまとめて書いたこともあるが、それを見た某全国紙が食塩水濃度に関して記事にした。 それまではよかったものの、注として食塩水濃度は「塩÷水」と紙面に書かれてしまった(正しくは「塩÷(塩+水)」)。後日、訂正記事を出してもらったが、恥ずかしい思いをしたものである。 2006年の秋に「今の景気の拡大の期間は『いざなぎ景気』を超えた」というニュースがあった。 これは、02年2月に始まった景気拡大が06年11月で58カ月目となり、1965年11月から4年9カ月に渡って続いた「いざなぎ景気」を超えたと当時言われた。 そのときのニュースで、「いざなぎ景気」の年平均成長率が11.5%のものと、14.3%のものの2つがあった。当時、この件を不思議に思って考えたところ、前者は相乗平均の発想で正しいものであるが、後者は相加平均の発想で誤ったものであることが分かった。 06年11月の当時、そのような誤った報道をしたマスコミ数社に上記の説明を丁寧に伝えたが、「いざなぎ景気の年平均成長率14.3%は誤りで、正しくは11.5%」という訂正の記事やコメントは見聞きしなかった。 そこで少し間を置いてから、雑誌や著書に年平均成長率の説明を書いたことを思い出す。 数式を使った詳しい説明は前述の拙著にも述べたが、マスコミ各社には平均成長率の概念をきちんと理解してもらいたい。 結論として全国学力テストに関しては、マスコミ各社が都道府県ごとの成績順位によって競わせるかのような記事を前面に出せば、国民はその方面に目を向けることになり、全国の知事皆様もそれに神経を尖らせざるを得なくなるだろう。 そして、「割合%」というような重要な課題は脇に追いやられてしまうことになる。調査結果の発表とその報道に関しては、抜本的な改革を望むものである。
芳沢 光雄(数学・数学教育)