「背番号1は憲志郎以外、考えられなかった」高校でトミー・ジョン手術→ソフトバンク育成指名…“投げられないエース”にチームが最後の夏を託したワケ
監督は「いずれ世代ナンバーワンのピッチャーに」
さらに青木監督は津嘉山にこう期待を寄せる。 「世代でいずれはナンバーワンのピッチャーになれると思っています。先発、中継ぎ、どういう役目になるのかは分かりませんが、野球で長くご飯が食べられる選手になるんじゃないかなと。人間的なところを見ても“コイツに任せたら大丈夫”と思われる選手になれる。野球を引退しても周りから必要とされるタイプなんじゃないですかね」 手術後まもなく1年が経つ現在は、キャッチボールで6割ほどの力を入れて投げられるようになった。それでも無理にペースを上げることはしていない。 「今、マックスの力で投げる必要はないと思っています。プロに入って1年目から投げる予定もないです。身体作りも大事ですし、ひじの状態を見ながら調整していくつもりです。今も(病院の)先生と相談しながら練習を進めていますが、状態は悪くないと思います。これからは走る距離を増やしながらフィジカル面もしっかり作っていきたいです」 プロに入ればまずは支配下登録が目下の目標となるが、将来像について尋ねると表情を緩ませながら津嘉山はこう口を開く。 「楽しく野球をしたいんです。仕事として野球をするので、真剣にする部分はもちろんありますが、楽しさという表現はちょっと違うかもしれないんですけれど、ファンの方が見て楽しくなるような選手になれたらと思います」 津嘉山が「見ていて楽しい」と思うのは同じ沖縄県出身の宮城大弥(オリックス)だという。 「あれだけのストレートを持ちながら緩いカーブも使って、僕から見れば意外性があって面白いって思うんです。真剣勝負の中で、“え、ここでそれ投げるん? ”みたいなボールを宮城さんは投げますよね。そういうピッチングができるようになりたいです」 今春の健大高崎のセンバツ初優勝に大きく貢献し、来秋のドラフト候補にも上がっている最速146キロ左腕・佐藤龍月投手が、今夏の甲子園出場を決めた直後にトミー・ジョン手術を受けるニュースが広まり、高校野球界に衝撃が走った。津嘉山はそのニュースを受け、自分の思いをこう口にする。 「佐藤君は同じ学年に石垣(元気)君というすごいピッチャーがいて、石垣君はこの秋に158キロを出してさらに注目されているじゃないですか。佐藤君からしたら、正直ものすごく焦っているんじゃないかと思うんです。僕の立場よりも、佐藤君の方がすごく大変なはず。 今はリハビリをしている時期だと思うんですけれど、気持ち的に落ち込んだりしているんじゃないかなと思っていて。でも、僕も2年生の時に決断して手術をして、ここまで回復してきているので、何か伝えられること、力になれることがあればいいなと思っています」
1年半しか立てなかった高校のマウンド…「こういうこともある」
高校野球のマウンドに1年半しか立てなかったことを、津嘉山は「こういうこともある」と言った。早くから高い能力を買われ、投げ続けてきて起きた“事態”について考えていくべきことはあるが、それでも野球人生はここで終わった訳ではない。 青木監督は「徐々にええボールが投げられているんですよ」と津嘉山に目線を送る。 ゼロから始まるプロ野球の道へ向け、津嘉山は今日もグラウンドに誰よりも早く着き、ボールを握りしめる。 18歳。津嘉山の野球人生の大きな“山”は、きっとずっと向こうにある。
(「プロ野球PRESS」沢井史 = 文)
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