絶好調の米国経済にちらつく「景気後退のシグナル」とは?
最近、連邦準備制度(FRB)高官が実施する記者会見では「米国の景気後退はいつくるか?」といった趣旨の質問が多く寄せられています。世界経済の4分の1を占める米国経済は2008年9月のリーマンショック以降、2009年央をボトムに足元まで約9年にわたって景気拡大を続けていますが、ここへきて景気後退の到来を示唆するシグナルがでているからです。
景気後退のシグナルとは?
それは「イールドカーブのフラット化」、「長短金利差の縮小」という現象です。一般的に将来の景気拡大期待が強い局面では、より長期の金利が(短い金利対比で)上昇する傾向にあるのですが、最近は長期金利の上昇が(短い金利対比で)鈍く、長短金利差が縮小しています。市場関係者が注目する長短金利差は2-10年、5-10年、10-30年、5-30年といった具合に様々ですが、これら尺度は何れも“逆イールド”、すなわち「短>長」の状態が間近に迫っており、このペースで延伸すると向こう数カ月のうちに長短金利差の逆転が視野に入ります。 ここで重要なことは、過去、逆イールドは景気後退局面の1-2年前に観察されてきたという事実です。これはFRBの利上げが行き過ぎてしまい、景気後退の一因になったことを示唆しています。長短金利差が縮小するのは、長期金利がさほど上昇しない(景気拡大期待がさほど高まらない)なかで、FRBの利上げ(金融引き締め)によって短い金利が上昇するためです。よって金利が「短>長」となることは「金融引き締め効果>景気拡大期待」という状態に近いと解釈することができます。 こうして考えると、長短金利差が急激に縮小している現在のイールドカーブの形状は、金融引き締めによる“悲鳴”を反映している可能性があります。FRBは中立金利(景気を加速・減速させない政策金利)を3%程度と見積もっていますから、現在の政策金利(1.50-1.75%)を“緩和的”と解釈することは可能です。しかしながら、中立金利は飽くまで目安で、その計算根拠の一つとなっている潜在成長率は相当な計測誤差の存在が知られていることを踏まえると、「3%程度まで政策金利を引き上げても景気は崩れない」という主張は危うく感じられます。 現状、逆イールドが目前に迫っているその事実を重視すれば、景気に中立なFF金利は2%前半から半ばが妥当と言うこともできるでしょう。つまり、理想的な利上げは残り3回程度(1回の利上げは25bp)というわけです。現在、FRBは3%程度までの政策金利を上げる計画を示していますが、それでは過去と同様、景気後退の一因になってしまう可能性があります。
(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。