【今だけ?】都心の一等地に増える“超高級老人ホーム”、建設ブームが長続きしない理由とは?
入居一時金数億、富裕層のみが入居できる“終の棲家”が、今話題の「超高級老人ホーム」だ。ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』では、至れり尽くせりの生活を享受するセレブな高齢者たちの実像に迫っている。高級老人ホームが注目された2024年だが、今後も増えていくのだろうか。本稿では、40年近くにわたり高齢者向け介護事業のコンサルタントをつとめる、株式会社タムラプランニング&オペレーティング代表取締役の田村明孝氏に話を伺った。(取材:甚野博則、構成:ダイヤモンド社書籍編集局) ――2024年に開業して話題になった「パークウェルステイト西麻布」のような超高級老人ホームの最新動向について伺います。今、どういう層をターゲットにして、どのような業界が参入しているのか、そして業界がどの方向を目指して進んでいるのか、教えていただけますか? 田村明孝(以下、田村):そもそも、有料老人ホームは高額な施設からスタートしたんです。入居時は自立した高齢者を対象に、非常に高額ではあるものの、それだけの価値があると思わせるサービスや環境を提供していました。聖隷福祉事業団や日本老人福祉財団が運営するホームもそうでしたね。これらは「ここに入れば人に自慢できる」というようなクラスのホームで、当初はそれが有料老人ホームでした。 ところが、2000年に介護保険が始まったことで、要介護者向けのホームが主流となり、現在では9割以上がそのスタイルにシフトしています。ただ、それでも自立した高齢者向けの高級施設に対するニーズは依然としてあります。 たとえば、東急不動産が運営する「イーライフ」が、自立型で高額な施設として一定の成功を収めました。それを見て他のデベロッパーも参入を検討し始めたんです。最初に参入した三菱地所は、伊豆のホームでうまくいかなかったり、世田谷の施設で入居率が低迷したりして、一時は高齢者住宅事業から撤退するという時期もありました。しかし、東急の成功や他のデベロッパーの動きにより、最終的には三井不動産が本格的に参入するなど、大手が再びこの分野に目を向けるようになっています。 ――これから自立型の高級ホームはさらに増えていくんでしょうか? 田村:私の見立てでは、65歳以上の1%くらいに自立型高齢者向けホームのニーズがあると考えています。ただ、現在の供給量は0.4%程度。まだ参入の余地はありますが、需要の上限は1%程度だと思います。今後も増えるとはいえ、急激な拡大は難しいでしょう。 ――そもそも自立型の施設に入りたいと思うのはどうしてなんでしょうか? 田村:特に女性の場合は「三度の食事の準備が億劫になってきた」という理由が多いですね。一方で、男性の場合は「別荘のような使い方ができ、人に誇れる場所に住みたい」という意図が含まれているように思います。 ――「パークウェルステイト西麻布」のような高級老人ホームでは、帝国ホテルの食事が提供されるなど、非常に豪華な設備やサービスにお金をかけています。今後もそのような流れは続くのでしょうか? 田村:確かに、そういったホームを「よし」とする人がいる限り、この方向性は一定の需要があると思います。しかし、それが長く続くかどうかは疑問です。 たとえば、「サクラビア成城」も、設立当初は2億~3億円で販売され、寿司屋のカウンターやダンスホールまで備えた超高級ホームでした。しかし、今では入居者の多くが要介護状態となり、デイサービスのスペースを設けるために部屋を改装せざるを得なくなっています。 同様に、「パークウェルステイト西麻布」が現在の高級感を20年先まで維持できる保証はありません。入居者のニーズや状態に応じて、サービス内容や運営方針が変化していくのは避けられないでしょう。 田村明孝(たむら・あきたか) 株式会社タムラプランニング&オペレーティング代表取締役。「高齢者住宅支援事業者協議会」事務局長 1974年に大学卒業後、ケア付き高齢者マンション開発会社に入社。神奈川県横浜市などにケア付き高齢者マンションの開設を手掛ける。1987年に株式会社タムラ企画(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立、代表取締役に就任。高齢者住宅の事業計画立案及び実施・運営・入居者募集等、一連の実務に精通したコンサルタントとして活躍。市町村の介護保険事業計画などの福祉計画策定をはじめ、老人福祉施設や有料老人ホームの開設コンサルや経営改善コンサルに力を入れ実践している。テレビ、新聞、雑誌など各種メディアへの出演実績多数。
田村明孝